2011-01-30

テキスト版 197号投稿作品(高橋透水 合原宏 すずきみのる 久乃代糸 倉本たけし 真鍋修也 赤間学)

 亀戸天満宮  高橋透水

鷽替や賽銭弾く賽銭箱

鷽替に今年も替へぬ嘘のあり

鷽替へて少女にはかに大人びる

奉納の笛の音高く里神楽

笛の音にふふむ梅どち笑ふ梅

絵馬にある訂正の文字春を待つ

菅公の好む紅とて梅咲けり

枝垂梅天蓋にして豊国の碑

子虫来て梅の一片落としけり





 初心者の俳句 合原 宏

しんしんと雪の降る中職探し

二等兵古兵にしごかれ雪の夜

無法松祇園太鼓で龍を呼ぶ

髭振りて炬燵に近き油虫

元旦や詣でて貰う風邪と熱

子供来て我が墓撫でて寒の酒

お正月何が目出度い家無し子

羊羹に寸を測りて大家族

へらへらと笑う角には鼠捕り





 二色  すずきみのる

腐草蛍に路上の石は利鎌と化す

睦言の後の秋韻双耳峰

降る雪や出雲平野に鉄の杭

水村山郭白鳥が闇を引く

新玉の携帯メール受信中

道のへは春奇形魚のでてくる日

はブラシはつつんですてる紫もくれん

ほたるの夜ふたりでアニメぶんかろん

もみぢかつちるさいふに大きなるコイン

こがらしやこぼれた酒がゆかにまで





 極東 久乃代糸

元日の箸の先から年零る

水涸れて木の踝が現われゐる

白髪を黒髪にして紅葉狩

心太山を吸う根の入りみだる

ひよつとこの面つけてゐるきりぎりす

蝸牛の夜道はくちびるを使う

極東に紅葉且つ散る浪花節

雨がふる土から葱をつくる人

海千山千買い減らす冬の米

まだにある昨日の水に薄氷が





 稲妻  倉本たけし

端居してチリメンジャコに選るいろいろ

蟻地獄きのふもけふも無為にすぐ

先生と呼ばれ青島牌酒(チンタオビール)受く

白日傘黒い日傘と鉢合わせ

捩花や姉の手紙の濡れてつく

合歓のはな狐の嫁入り土手をゆく

とっぷりと日暮れて帰る夏木立

稲妻やコツと打ちわる生卵

待宵や魚一尾焼く夕炊ぎ

胃カメラに腹さぐられしそぞろ寒





 初鏡  真鍋修也

紅を引く三面の母初鏡

まだ慣れぬ着物着る日や初鏡

風呂上がり重なる姪や初鏡

初鏡三面鏡に三母かな

初鏡少し欠けたる古さかな





 ふくと汁  赤間学

どうせすぐゆく身でありしふくと汁

松に雪文字の小さな大辞典

オーロラの白熊沖に出てゆけり

けぶり立つ富士の頂初景色

海溝に浮きて大きな鯨かな

観音の固まってゐる福寿草

印画紙の像立ち上がる十二月

しかしまだ先は遠きか木々の雪

凍鶴は宇宙への旅行ったきり  

冬苺廃鉱山の異人墓


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