2011-02-20

〔祐天寺写真館・メキシコ篇〕一番大きな木

〔祐天寺写真館・メキシコ篇〕
一番大きな木

長谷川裕

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オワハカ市の近郊、サンタマリア・デル・トゥーレという小さな町の広場にあるメキシコラクウショウの巨木。ヌマスギの一種で水辺を好む。樹齢二千年以上とか。屋久島の縄文杉は幹の周囲十六メートルだが、この木は三十二メートルと、まあ、おそろしくでかい。威厳がある。

太古、このあたりは大きな湖で、メキシコラクウショウの巨木が鬱蒼たる森を形成していたらしい。しかし、気候の変動により乾燥してきたため、湖は干上がり、森は消えてしまった。いまはこの木のほか数本だけが生き残っている。いまだに成長を続けているのは地下水脈があるおかげなんだそうだ。

人はどういうわけか巨木に惹かれるので、この木はビンボーな町に現金収入をもたらす観光資源となっている。住民は水を絶やさぬようにしてこの木を守っている。この堂々たる姿には注連縄や御幣が似合いそうである。

惜しむらくは、この写真ではそのスケールがわからない。小説家フアン・ルルフォの写真集を見ていたら、彼がこの木を撮っていた。ルルフォは原住民調査局に勤務し、記録を撮っていたため、写真の見せ方をよく心得ており、この巨木に白い服の少女を添わせた。彼のモノクロ写真ではこの木の偉大さが判る。うまいもんです。祐天寺は下手です。

先スペイン時代から使われているナワ語では、この木を「Ahuehuete」=「アウェウェテ」と呼ぶ。「水の老人」の意です。「水翁杉」とでもいうところか。「スイオウセン」かっこいいねえ。が、二千年の星霜を経た翁も、いまでは仲間がすべて滅んでしまったのに、自分だけが生き残り、なんだか所在なさ気である。いずれ水を吸い上げるのをやめ、自裁してしまうかもしれない。そして、こうした翁が世界中に一本もいなくなったとき、人間も滅びるのだろう。


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