〔句集を読む〕
可笑しい
小池正博句集『水牛の余波』
西原天気
小池正博さんは川柳の人である。この句集には川柳がたくさん載っている。川柳しか載っていないと言ってもいいくらいだ。
で、読んだ。
可笑しい。この『水牛の余波』という句集。
くすくす。さすがに「あはは」と声に出しては笑わないが(ふだんでも笑いの沸点は低くない)、可笑しい。
可笑しい、ということを、どうぞ広義に受け取っていただいて、ページをめくってまいりましょうか。
p6 岩ペンギンはなるほど、なんだかエラそうだ。
p7 鴉から火星へ。
p8 いさかいとトナカイは、広辞苑よりもむしろ言語学か文化人類学のおもむき。
1ページ、飛ぶよ。
p10 箱を並べて、腕組みをし、はて、と、悩む男。
p11 そんなもの、ぶっかけられたら、坊さんもたまらない。
適当に、ページ、飛びますよ。
p17 この靴はあったかい。じーんとする。一方、この心臓は、かなりざわざわする。
p30 わっ、おばさん!
p33 わっ、ヌートリア!
p38 この排卵音は、みょうに納得する。
p40 これはうれしくない。
p47 そんな辻が花。
……と、まあ、こんなぐあいで、ひどく可笑しいのだが、読者諸氏は、お怒りのことだろうと思う。何が可笑しいのか、わからん。どんな句なのだ?
それは重々承知の上で、句集評を読んでいて、ときどき思うのです。「こんなにたくさん句が挙がっているのだから、もうじゅうぶん句は読めた。この句集は読まなくてもいいや」
そんなこともあって、句を一句も挙げない句集評があってもいいのではないか、と。「おもしろいから、読んでみ」と告げるだけの句集評。
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買ってまではなあ、という人は、別の入手法もあるだろうから、それは各自工夫を。
「おい! そうじゃなくて買えよ」なんてことは、小池さんはおっしゃらないと思う。
それから、川柳の人は、難解な批評をばりばり書く方がたくさんいらっしゃいますが、私、むずかしいことがわからないし、書けません。
だから、「可笑しい」と、それだけ言っておきます。
ま、それだけだとなんなので、もうすこし。
どんどんどんどんページを早くめくって、読みました。いわゆる斜め読みとは少し違う。図鑑をめくる感じ。ときどき立ち止まって細部を眺める。
3月11日の大災害以来、なかなか通常の心理状態ではいられませんでしたが、『水牛の余波』は可笑しくて、気分が落ち着いて、日常を思い出させてくれました。
※少しくらいは句を読ませろ、という方は、こちらをどうぞ。
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2011-03-20
〔句集を読む〕小池正博『水牛の余波』 西原天気
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