2011-04-03

林田紀音夫全句集拾読158 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
158





野口 裕



噴水の孤塁さざめく昼日中

昭和五十年、未発表句。日中に起こっている奇跡を誰も見ようともしない。ただ私だけが見ている。そんな雰囲気を醸し出して、「孤塁」が有効に働いている。発表句に、類似の句なし。

 

能の影曳く月光を私し

昭和五十年、未発表句。能という言葉を紀音夫が使うのを初めて見た。句の雰囲気を計算し尽くした絶品に見えるが、先例のある句柄ではあろう。発表句に、発展形はない。

 

数千の日箭の現つに爪伸びる

昭和五十年、未発表句。日箭は紀音夫の好む句材。自画像のクローズアップのように現れる爪。ごく普通の景ながら、取りようによっては異様な景。

雨雲の木曽さわさわと人音殖え

昭和五十年、未発表句。旅中の印象を書き留めた句。

夢に遍路を追い大阪の灯も雨の中

昭和五十年、未発表句。遍路も大阪の灯も紀音夫の句ではよくあるが、木曽の次に置かれていることで、旅帰りと思われる。旅を終え、なお旅を追いかけるか。

 

或る午後の無音の渚玉手箱

昭和五十年、未発表句。いきなり玉手箱が出てくるので、驚く。意味を通すよりは、イメージでどこまで行けるかの試みだろう。


月光は罪のまほろば水のほとり

昭和五十年、未発表句。同じく「まほろば」を、辞書にあるような、「すぐれたよい所」と理解すると意味が通らなくなる。罪の集積ぐらいの感じで使っているのだろう。もっとも、句会に出すと反論相次ぐ句になるのは必至。未発表句に止め置かざるを得ないか。

 

木漏れ日のしみじみ痛く石畳

昭和五十年、未発表句。滅茶苦茶に甘いが、これも紀音夫。何回か読んで、「しみじみ」の措辞に慣れれてくると、「痛く」が様々に響いてくる。石畳に散る光が効果的。


欄干にてのひらあずけ重たい霧

昭和五十年、未発表句。頼りになるのは触覚ばかり。夜とは書いてないが、その雰囲気が濃厚。


洒中数刻棧橋の揺れ夢に

昭和五十年、未発表句。「洒中」という言葉はなさそうなので、おそらく「酒中」の書き損じか。漢文読み下し調を意識した、紀音夫には珍しい詠みぶり。

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