2011-04-17

林田紀音夫全句集拾読160 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
160




野口 裕



玉砂利に白無垢の死の音招く
線香に日のさすうちの柩出る

風蝕の影長く曳く道があり


棺に打ち音の大きな釘幾寸


通夜の燭揺れて大きな影を生む


白昼の遠い霊柩車につづく


火葬の鉄扉閉じてやさしく刻過ぎる


火葬場の空の煙突罅を生む


水の音して線香の火を足す通夜


火を幻の胸に抱かれた骨となる


線香の火を足す通夜の外暗く


昭和五十一年、未発表句。十一句連続した通夜・葬儀の句。出棺を経て火葬の時間の内に、現実と前夜の回想が呼び起こされるように句の流れが続く。一、四、七、九句目に印象的な音を配し、句全体を通して光と影・闇の交差が支配している。七句目の「やさしく」は、一句だけでは効果が出てこない語だが、こうして句群全体を眺めてみると無理なく置かれている印象である。句を読み進める内に、死に対する想いが自然とつのってくる。俳句総合誌等に発表するために用意された句群だろうか。

 

百度石洗車の水のきて凍る

昭和五十一年、未発表句。百度石は、寺社でのお百度参りのために立てられた標識用の石。情景は容易に想像できる。洗車したのは、寺社の関係者のはず。お百度参りにかける人の心情は、紀音夫にとってなお近くある。それだけに、複雑な心境だったはずである。

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