2011-05-08

林田紀音夫全句集拾読163 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
163




野口 裕



煙突の形に煉瓦はかなく晴れ

昭和五十一年、未発表句。ちょっと前に、「玉砂利に白無垢の死の音招く」から、「線香の火を足す通夜の外暗く」までの連続した十一句を取り上げた。そのときに、「俳句総合誌等に発表するために用意された句群だろうか。」と書いた。なんと、その証拠を私自身が所蔵していた。

昭和五十一年「俳句とエッセイ」十月号(牧羊社)に、紀音夫は「火妖抄」と題して十五句を発表している。何かの参考になろうかと、百円で買っておいた物だ。つい忘れていた。気が付いたときには、思わず笑ってしまった。十五句のうち、五句目に

  夜に夜を重ね死神燭の中

と、臨終を思わせる句があり、

  水使う音のしきりに通夜の燭

  火葬の鉄扉閉じてやさしく刻過ぎる

と続く。連続した十一句中の七句目が後句と同一である。また、前句は、十一句中の九句目「水の音して線香の火を足す通夜」を推敲した句と想像される。上掲句はこの二句の後の七句目である。未発表句の中には、このような形で紛れ込んでいる発表句が、まだあるだろう。

 

雨びしょびしょと飲食のを悲しむ夜

昭和五十一年、未発表句。「のを」はどちらか一つを付けるはずだったのだろう。どちらかを決めかねて、うっかり二つとも書いてしまったとも見えるが、「を」から「の」へ付け替える過程で「を」を消し忘れたようにも見える。「てにをは」の微妙な付け替えで、句の世界の多層性を創ってゆく紀音夫の作句工房をうっかり見せてしまったように、当方には受け取れる。

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