林田紀音夫全句集拾読 167
野口 裕
生涯の海へ傾け米洗う
昭和五十一年、未発表句。米の研ぎ汁を捨てると、研ぎ汁は最終的に海へ流れるから「海へ傾け」と見、その海を「生涯の海」と見る。積み重ねた連想を逆に展開して一句をなす句法。紀音夫が手ずから米を洗ったのは従軍時だった。米洗う行為は、時として戦時を想起させるものだったのだろう。
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血まみれの四囲蝋燭の火の昔
昭和五十一年、未発表句。型が決まりすぎるほど、決まっている。この時代には退屈に感じられるだろうと、作者は予想したのではないか。作者自身は、おそらく「昔」に一抹の曖昧さを感じていたのだろう。両様の理由で未発表に至ったか。昭和五十一年花曜に「燈明の夜昼血腥く炎え」、昭和五十二年海程に「死の中の蝋燭の火を持ち歩く」、昭和五十二年花曜に「蝋涙のさめざめと夜そして昼」がある。
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2011-06-05
林田紀音夫全句集拾読167 野口裕
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