2011-06-12

林田紀音夫全句集拾読168 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
168



野口 裕



風に押されて漆黒の夜を眼に胎す

昭和五十一年、未発表句。「胎」の字が、句を締めた。昭和五十三年花曜に、「瞼より疲れてくれば風の鞭」がある。しかし、句の魅力は未発表句の方にある。

 

大阪のうるむ灯の粒いくつの敵

昭和五十一年、未発表句。赤い灯青い灯のなかに沢山の敵がいるという大げさな発想が、ほほえましい。「大阪煙るカレーの皿と顔離せば」と書いたのが第一句集『風蝕』。章立てによると、昭和二十四~二十六年の間の作になる。比べてみると興味深い。

なお、鈴木六林男に「人日の七人の敵我にあり」という句があったと思うのだが、どうしても出典が見つからない。特に下五の記憶が曖昧になっている。作句年代も分からないが、紀音夫の作句癖から見ると下敷きにしていることは十分考えられる。

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