2011-07-10

林田紀音夫全句集拾読172 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
172



野口 裕



夜を招くだけぶらんこの水溜り

昭和五十一年、未発表句。ぶらんこの真下は掘れて水溜りになりやすく、雨は上がったけれど、漕げない。遊べないままに一日が暮れてゆく。そんな景だろう。子供達の無念の思いとは無関係に、それを眺めている大人がいる。


浄瑠璃の夜道につのる竹の私語

昭和五十一年、未発表句。夜風に竹が鳴る。それだけのことが様々の物語を想像させる。芝居仕立ての句は紀音夫には珍しい。

 

鉄橋の十一月を寝て過ぎる

昭和五十一年、未発表句。どうということのない句ではある。しかし、この頃が安価な旅の移送手段として寝台車を使用した最後の年代になることから、思わず目に止まった。

眠れぬままレールの響きに身を任せると、過去の苦しかった時代が甦る。たぶん、同じ寝台車の乗客にとっては無縁の世界だっただろう。

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