2011-07-31

林田紀音夫全句集拾読175


林田紀音夫
全句集拾読
175



野口 裕



激忙の爪半月も薄日なた

昭和五十一年、未発表句。忙しいと言えば言うほど、人は忙しいとは思ってくれない、という法則を知っていながらつい言ってしまうことがある。激忙は思わず書いてしまった言葉だろう。ここで初出。発表句には出てこない。

爪半月は、発表句の方に出てくる。「爪の半月濃く幼くて水遊び」(昭和五十一年、「海程」)、「爪半月なくて行きあう護摩けむり」(昭和五十五年、「花曜」)。後句は、第二句集以後の収穫の一つに数えることができる。

 

雨だれの夜昼なくて針に糸

昭和五十一年、未発表句。小止みなく降り続く雨。窓から室内に目をやると、やりかけの針仕事でもあるのか、針と糸が置かれている。ごく普通の光景に、確かな生の一こまがある。だが、あまりにも平凡に映るので、自選の段階で拾い上げるのは難しいかも知れない。

0 comments: