〔週俳6月の俳句を読む〕
カメラワーク
加茂 樹
傘ふかく煙草火ともる五月闇 村上鞆彦
黒い大きな雨傘の影にぽっ、と煙草に火をつけるライターの火が灯る。煙草は男性も女性も吸うのに、この句の客体は男性だと思う。視線が傘の中に吸い込まれていって、また傘を包む闇に戻る、という視線の動きのせいなのだろうか。傘ふかく、という措辞に傘をさす人の質量をわたしは想像しているのかもしれない。
ポテトサラダのきうりの外れ落ちし穴 生駒大祐
一度も観察しようと思ったこともないし、たぶん気づいたこともない瞬間がここにある。アイスクリームディッシャーで盛られたポテトサラダに薄切りの胡瓜が飾ってあってそれが外れたのだろうか。穴が残っているというのだから差してあったのだろう。ごく至近距離で寄って切り取った景。わたしにはこの胡瓜の緑や、(この場合は)うすっぺらな青いにおいがやけに近しいものに感じられる。
夏の客人漂うて来て椅子にゐる 生駒大祐
怖い句だ。気づいたら椅子にふわっと客人が座っていたという感じがする。「客」なんだから、気づいたらということはないはずなのだが。漂ってきた、という言葉は、○月○日行くからね、と約束してやってきた客にはそぐわない。ふわふわとした歩き方なのだろうか。それとも風をはらむようなゆったりした服に身を包んだ人だったのかもしれない。どちらにしても、実の詰まった感じのしない影の薄い客人だ。いつ消えてしまうともつかないような。
第215号 2011年6月5日
■生駒大祐 しらたま 10句 ≫読む
第217号2011年6月19日
■村上鞆彦 海を見に 10句 ≫読む
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2011-07-03
〔週俳6月の俳句を読む〕加茂樹
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