〔10句競作を読む〕
感傷と冷静 太田うさぎ
風呂敷の中の秋風年経たり 久乃代糸
旅行へ出るときなど替えの衣類を収めるのに風呂敷を用いている。鞄の中身に合わせて形を自在に変えられるので重宝なのだ。実家では客用座布団一揃いを風呂敷に収納している。風呂敷は何をくるんでも角張ったところがなく、見た目が柔らかい。曲線のフォルムはその中に風が仕舞ってあると想像を働かせるに相応しいだろう。
「風呂敷の中の秋風」にも注目したが、その後の「年経たり」への展開がいい。歳月に対して秋風を配する手法はストレートだし、下五はダメ押しになっているという見方もあるだろうけれど、情に押し流される手前で留まったことでさびさびとした感慨を句に与えたと思う。ある年の秋を風とともに閉じたままほどかれることのない風呂敷。その内側と外側には同じ年月が流れている筈なのに両者は微妙に重ならない。
うつろう季節のなかで自身の時間の流れを見つめる目は、
季節外れベンチおのずから倒れ
地下鉄を乗り継ぐ日々も枯れゆくに
からも感じられる。感傷と冷静が鬩ぎ合いながら句の佇まいはあくまで静か、というところに興味を引かれた。
≫週刊俳句「10句競作」第1回
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2011-08-14
〔10句競作を読む〕太田うさぎ
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