2011-08-21

林田紀音夫全句集拾読178 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
178



野口 裕



わらわらと風の芒に仏立つ
きらきらと苦界の芒風を呼ぶ

昭和五十一年、未発表句。芒の揺れるさまは、なにがしかの感慨をもたらす。その感慨をどう表現するか。一句目は仏、二句目は苦界と眼前の景からの飛躍をめざすが、それ自体、うまくいっているとは言いがたい。しかし、二音繰り返しのオノマトペからの始まりは、常套手段ながら芒のさまを読者に想起させるには十分で、かえって常識的な発想が芒にはよく似合っている。紀音夫なりの有季定型句。


寿司を巻く生きてまた死ぬ手のほとり

昭和五十一年、未発表句。「生きてまた死ぬ」は、思わず口をついて出たというような表現。それだけ輪廻転生の考え方が血肉化している。第一句集に、「寿司もくひ妻の得し金減り易し」、「仏壇の金色ひらき寿司もてなす」があるが、そこからの連続と深化とを、こもごも感じ取れる。

 

箸立てに箸のまばらな驟雨くる

昭和五十一年、未発表句。「箸立てに箸のまばらな」が、実景のようであり、驟雨の形容のようでもありと、例によって言葉と言葉に微妙なもたれ合いが見受けられる。とは言えど、言葉が意味を持つ前にまず発せられたという印象があり、その点では珍しい句。

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