林田紀音夫全句集拾読 180
野口 裕
鍵の鈴鳴らし夜道に咳ひとつ
昭和五十一年、未発表句。鍵束を鳴らしながら夜道を急いでいるところか。なぜ鍵束なのかはいろいろと考えられる。仕事が遅くなって作業場を締めた後の鍵束なのか、たまたま家族が留守の家への帰路なのか、等々。咳ひとつに孤独感を漂わせる。
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巻寿司に裏山からの日がすこし
昭和五十一年、未発表句。巻き終わって夕餉を待つ時の情景なのか、来客のあった昼下がりに巻き寿司の断面に日の当たっている光景なのか、その他様々な場面が考えられるが、読者それぞれが想像すればよいだろう。「少し」ではなく、「すこし」としているところなどよく効果を上げて、物寂しい雰囲気がただよう。
寿司はもはや季語とはいえないだろう。巻き寿司なら、なおさらである。かすかな寂寥感の中に、季語から転落した言葉の悲哀を感じるのは読み過ぎだろうが、ちょっと誘惑にかられたくなる。
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2011-09-04
林田紀音夫全句集拾読180 野口裕
Posted by wh at 0:06
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