〔週俳8月の俳句を読む〕
やがて消えてゆく
西村 薫
秋意 藺草慶子
やがてなにもなくなる昼を秋蝉よ
夏中、うるさく鳴いた蝉たちはまるで広場から退く群衆のように死んでしまった
真昼を今は秋蝉が鳴いている
それもやがて消えてゆく
月光に蝕まれたるごとく座す
月との交接か・・・
妖しい月の光に貫かれ、崩れるように座す
一部分 奥坂まや
ぎらぎらと炎天がいま孵化しさう
ぎらぎらと光を放つ炎天はまさに今、孵化寸前
目の前の光景と〈われ〉が一体化した瞬間
己が死へ急ぐ蝉声真くれなゐ
芭蕉の「やがて死ぬけしきは見えず蝉の声」
のせいか、わんわん鳴く蝉の声を聞くとやがて死ぬのだなと思ってしまう
死に際の蝉の声は血を吐くような「真くれなゐ」 と声を色に変換した
肯える
あふれやまざる白桃をむさぼれる
白桃のしたたりは口の周りを濡らし、顎まで伝って落ちる
無法に貪るさまがエロティックでいい
水差し 陽美保子
ひとつかみ草落ちてをり盆の路
草一本落ちてない路よりもひとつかみの草が落ちていることに、
より一層草取りをした直後がリアルに伝わる
笹原を分ける夕風茄子の馬
絶妙な季語の斡旋により、夕風が生々しくなった
風に乗って、笹の葉を揺らし、
祖先の魂がこの世に戻ってきた
ピザカッターまつすぐに引き小鳥来る
ピザカッターという小道具と季語がひびき合い
賑やかな食卓の雰囲気が伝わった
第224号2011年8月7日
■湾 夕彦 蒟蒻笑ふ 10句 ≫読む
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