2011-10-09

林田紀音夫全句集拾読185 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
185



野口 裕



漂遊の満月瞼冷えるとき
漂落の目がしら拭う風の渕
雨雲を刺し漂落の骨の梢

漂落の夢したたかに夕日の朱


昭和五十二年、未発表句。三百六十五頁から三百六十六頁にかけて、「漂遊」、「漂落」といった聞き慣れない表現をしきりに使って作句している。以降の頁をざっと見たが作句例はない。憑かれたように書き、ぱったりと書かなくなってしまう。俳句を書く人なら誰もが経験することが紀音夫にも起こった、と見るべきだろう。三句目が修辞の極限を行く。しかし、四句目の方が、景は立っている。

 
星ひとつふたつと数え石子詰

昭和五十二年、未発表句。この句は当然、「いつか星ぞら屈葬の他は許されず」と繋がる。屈葬よりも強烈な印象を与えるものとして、石子詰が選択されたのだろうが、屈葬に比べて感情移入しにくく、成功しているとは言いがたい。一句をなした後もあれこれと句をいじり回る紀音夫の性癖はよく出ている。

 

鶴を折るための薬包紙は何処に

昭和五十二年、未発表句。軽いユーモアのつもりだろう。何となくずれている。

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