林田紀音夫全句集拾読 186
野口 裕
身辺の凄じく鳩羽音生む
昭和五十二年、未発表句の頁にあるが、昭和五十二年「海程」の発表句。鳩のわっと飛び立つさまを活写し、それがそのまま心理状態の暗示になっている。「海程」発表句を拾う段階では見落としていた。
畳に薄日綾とりの影切々と
昭和五十二年、未発表句。綾とりは、第二句集『幻燈』最終章(昭和四十五~四十七年)になっている。
綾とりのくらがりの子を残して死ぬ
綾とりの朱の弦強く子に渡る
綾とりの母子に水の夜深くなる
綾とりの母子茫々と暗くなる
などの句が上げられている。二句目は秀作。未発表句は、畳に落ちた淡い糸影を「切々」としたところを有効と見るか無理と見るかは微妙。句集の二句目には負けるが、残りの三句と比較して遜色はないようにも思う。「海程」、「花曜」どちらにも発展形はない。
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樒解く人に降り出し春の雨
昭和五十二年、未発表句。葬儀の句は世に数多くあれど、葬儀の終了時を句材とするのは珍しい。「春の雨の本意・本情にかなっている」と、句会の選句評の常套パターンを使いたくなるが、春雨と春の雨は違うという声が聞こえてきそうだ。ともあれ、堂々たる有季定型句。
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2011-10-16
林田紀音夫全句集拾読186 野口裕
Posted by wh at 0:04
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