浅葱裏 小早川忠義
畦行くや爪先立ちに湯宿まで
母の手を振り解く子や七五三
ミサイルをいくつ吸ひ込む冬夕焼
浅漬を噛む音欲求不満にて
謝るもはや飽きてをり懐手
人の輪にありて話さず枯葎
息白き老カウボーイ投げ縄す
かきまぜてをれば葛湯にとろみ立つ
時雨るるや南京虫時計止まり
愚痴めいて手に余るなり冬林檎
組み伏され絨毯柄の枡数ふ
冬霧や父と喧嘩のできずあり
寒卵煮え湯にそつと沈ませぬ
短日や花の形に餃子盛り
暮れ六つと空に呟く冬曇り
野天風呂までこゑ届き焼藷屋
我が裡のをとこさざめく熊祭
義士の日の慶応義塾ひつそりと
年取や幾度祈らねばならぬ
厄落し三度目も何事もなく
たのみごと投扇興の合間にて
折詰の海老固くあり初芝居
ひめ始め浅葱裏とは呼ばれずに
羽子板に描かれし少女鼻のなく
嫁が君やもめの家に何用か
獅子舞や頭おとうとあには尻
餅の罅いよいよ割れて実千両
ラガー達我も我もと湯に入り
寒紅や夭折歌手の遺影濃く
人日の素うどん温く喉に落つ
初仕事水銀の瓶重くあり
東屋に冬まくなぎのちらちらと
小正月ミルクの缶に穴二つ
寒弾や耳に疲れのあるらしく
悴みてヨーヨーの手に戻らざり
小松菜を抱へ参るや鍋奉行
いかにして友とすべきか雪女郎
箸に歯に抗する冬の鯛であり
冬苺小鉢の縁を転げ落つ
都鳥都の果てを飛び立てり
絵踏かな佐世保バーガー眼前に
寒菊や花瓶に枯れず残りあり
熱さまし三つ残して風邪治る
寒柝を聞けばペダルの空転す
齧りゐる焼きたてのナン魚は氷に
立春の町医者を訪ふ救急車
北窓を開ければ月の淡くあり
冴返る終まで歩くアーケード
春寒や四羽の白鳥口衝いて
涅槃図や仲の良き者ばかりなり
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2011-10-30
2011落選展テキスト 小早川忠義 浅葱裏
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1 comments:
反省を込めて「ひとりミーティング」しました。
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