2011-10-02

〔週俳9月の俳句を読む〕上田信治

〔週俳9月の俳句を読む〕
勝手読み

上田信治

新秋の蛇口に映る顔長し     藤崎幸恵

新秋の蛇口のひんやり感、何かに映る何かという仕立てはごく穏当だが、この顔は、暑さの夏の間に、糸瓜のように伸びたものかもしれない。

雨の日は雨の日のいろ曼珠沙華

曼珠沙華以前に、雨の日というものが、雨の日のいろである、と。そう念を押されている。



隣り合ふ家の朝顔似てゐたり  岡田由季

朝顔は、朝顔どうし似ていることを、問題にしない。二つの家も、自分たちが隣り合う家であるとは、思っていない。

これは神の視点である。

秋日さす手乗り文鳥ゐる和室

この部屋に、手乗り文鳥はいても、手がない。その余白感。



鳥渡るひとかたまりに靴脱いで  嵯峨根鈴子

靴の主たちが、目の前にいないということは、その鳥たちがもう日本にいないということと、相近しい。

日本のどこかに、脱がれているたくさんの靴。秋によく見る風景であるような気もする。

きしきしと秋日のなかの牛のかほ

牛が、秋日にこすられているような、顔をしている。



針を待つ音盤めきぬ秋の水  赤羽根めぐみ

それはその通りだろう。

白桃と真珠どちらかが男ではない

そんなことはないだろうw



あら今宵ちよいと居待よ俥屋さん  佐山哲郎

柿むきし僧のその嘘子規向きか  井口吾郎

まったくもって、言葉である。

第228号2011年9月4日
藤崎幸恵 天の川 10句 ≫読む
第230号2011年9月18日
岡田由季 役 目 10句 ≫読む
佐山哲郎 月姿態連絡乞ふ 10句 ≫読む
井口吾郎 回文子規十一句 ≫読む 
第231号2011年9月25日
嵯峨根鈴子 死 角 10句 ≫読む
赤羽根めぐみ 猫になる 10句 ≫読む


0 comments: