〔週俳9月の俳句を読む〕
勝手読み
上田信治
新秋の蛇口に映る顔長し 藤崎幸恵
新秋の蛇口のひんやり感、何かに映る何かという仕立てはごく穏当だが、この顔は、暑さの夏の間に、糸瓜のように伸びたものかもしれない。
雨の日は雨の日のいろ曼珠沙華
曼珠沙華以前に、雨の日というものが、雨の日のいろである、と。そう念を押されている。
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隣り合ふ家の朝顔似てゐたり 岡田由季
朝顔は、朝顔どうし似ていることを、問題にしない。二つの家も、自分たちが隣り合う家であるとは、思っていない。
これは神の視点である。
秋日さす手乗り文鳥ゐる和室
この部屋に、手乗り文鳥はいても、手がない。その余白感。
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鳥渡るひとかたまりに靴脱いで 嵯峨根鈴子
靴の主たちが、目の前にいないということは、その鳥たちがもう日本にいないということと、相近しい。
日本のどこかに、脱がれているたくさんの靴。秋によく見る風景であるような気もする。
きしきしと秋日のなかの牛のかほ
牛が、秋日にこすられているような、顔をしている。
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針を待つ音盤めきぬ秋の水 赤羽根めぐみ
それはその通りだろう。
白桃と真珠どちらかが男ではない
そんなことはないだろうw
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あら今宵ちよいと居待よ俥屋さん 佐山哲郎
柿むきし僧のその嘘子規向きか 井口吾郎
まったくもって、言葉である。
第228号2011年9月4日
■藤崎幸恵 天の川 10句 ≫読む
第230号2011年9月18日
■岡田由季 役 目 10句 ≫読む
■佐山哲郎 月姿態連絡乞ふ 10句 ≫読む
■井口吾郎 回文子規十一句 ≫読む
第231号2011年9月25日
■嵯峨根鈴子 死 角 10句 ≫読む
■赤羽根めぐみ 猫になる 10句 ≫読む
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2011-10-02
〔週俳9月の俳句を読む〕上田信治
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