2011-11-13

〔週俳10月の俳句を読む〕室田洋子

〔週俳10月の俳句を読む〕
思ふところ

室田洋子


今日の月思ふところに上がりけり  日下野由季

今日車を運転しながら目にした月は、ひときわ大きく明るかった。
見える時も見えない時も、いつでも月は空にあるのだが、
不意に心の中を照らし出されたような気がして、しみじみと仰ぐ。
思ふところに上がった月とは、何か思いが叶ったのだろうか、
あるいは会いたい人に会えたのかもしれない。
若い女性らしいすっとした詠みぶりの、気持ちのよい句。

霧立ちぬ旅の机に書きをれば  同

胸の上に文庫の厚み霧に眠る  同

旅に出ると手紙を書きたくなる。
あれもこれも伝えたくて、絵葉書の小さなスペースにびっしりと。
まして、霧に立ち込められてしまった宿ならばなおさら。
たぶん一人旅なのだろう。
手紙を書き終え、旅行鞄に入れた 文庫本を手にベッドへ入る。
「霧に眠る」に、すこしの孤独と、美しい旅情を感じる。 



秋の暮闇が手足にとりつきぬ  山口優夢

三月十一日の大震災。直接被災したわけでは無いが、
いつも不安が付きまとう。それはまさに闇にまとわり
つかれたのだ。じっとりと濡れた重い闇。
被災された方々の重さはどれほどか。
夜が明け朝日が昇るように、一日でも早く光が差して、
闇が消えるように祈る。


日下野由季  森の日 10句 ≫読む
かまちよしろう 20句 ≫読む
山口優夢 海 10句 ≫読む

0 comments: