〔週俳11月の俳句を読む〕
赤いやつ
岡田由季
革ソファより底冷を吸い上げる 菊池麻美
革ソファ自体ひんやりしている感触のものだが、さらに底冷えだ。寒いだけではない。おそらくあまり居心地もよくない場面なのであろう。事務所か待合室のようなところだろうか。冷えきったソファにいつまでも座っていなければならない状況。「吸い上げる」という少々オーバーな表現に困惑具合がうかがえ、くすっとさせられた。
日向ぼこ均等にしてよタルトの赤いやつ 山下彩乃
まずはその物の名前を正確に知らないと俳句にはできないと思っていたが、この句では「赤いやつ」などという表現をそのまま使っていて大胆さに驚かされる。あの赤いやつにもジャムだかナパージュだか名前があるわけだけれども、そんなことには構わず作者の中ではあくまでも「タルトの赤いやつ」なのだろう。妙に長い句で、日向ぼこという季語が合っているかさえ私には判断できないけれど、口語表現とともに率直な楽しさを感じた。「野蛮」というタイトルも面白い。
枯菊の高さに犬が来ていたり 田中朋子
飼ってみてつくづく感じたが犬は寄り添ってくる動物だ。気がつくと、特に何か要求をしてくるでもなく、ひっそりと横に来ていることがある。この句の犬は作者と親しい関係の犬だと思って読んだ。枯菊の高さというのだから小型犬ではないだろうし、子犬でもないと思われる。慣れ親しんだ相棒のような動物の気配を、大きさでも音でも匂いでもなく、高さで感じているのである。ああそばに来ているな、と思うだけのさりげなさが好もしい。
ブローチの光が飛んで冬の森 宮本佳世乃
ブローチも冬の森も光るものだ。いずれも内側からの光ではなく反射光である。ブローチにも冬の森にもあまり現実の手触りはなく、かといってファンタジーと言えるほどの物語も語られていない。同じような質感の言葉を並べて平板な印象にならないのは、光が「飛んで」という動きが入っているためだろう。「飛んで」のスピード感により、句全体が瞬時きらっと輝く。
■笹木くろえ 流星嵐 10句 ≫読む
■豊里友行 祖母眠る 10句 ≫読む
■菊池麻美 神去月 10句 ≫読む
■山下彩乃 野 蛮 10句 ≫読む
■田中朋子 ビル風10句 ≫読む
■宮本佳世乃 カナリア10句 ≫読む
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2011-12-04
〔週俳11月の俳句を読む〕岡田由季
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