2011-12-11

〔週俳11月の俳句を読む〕広渡敬雄

〔週俳11月の俳句を読む〕
俳句に対する矜持

広渡敬雄


ふゆざくら山のうしろのとんびの巣   宮本佳世乃

冬桜が真青な寒空を背景に小さく凛と咲いている。
かなりの数だ。後ろの山はすつかり葉を落とし静かに眠っている。
その山は、夏とは違い枯木のふっくらとした落着いた色彩で、山の裏まで透けて見えそうだ。
作者の脳裏には、かって見たあるいはさっき見た鳶の巣がありありと浮かぶ。
鳶はしたたかな鳥で、高木に枯枝を集めて来て自身で巣を作るが、時には鴉や隼の巣(古巣)を横取りすることもあり、逞しい生命力。
薄緑のやどりぎが絡む高木の鳶の巣は、春の雛の誕生を予感させ、寒林の中で
ひときわ存在感があり鮮やかだ。
凛と咲く冬桜と存在感のある鳶の巣。それはきっと作者の俳句に対する矜持ではないかとも思えてくる。
そしてなぜか、ふっとこの句が思い出された。

 荒栲や光がつつむ鴉の子   橋閒石



焚火してかの山脈が迫つてくる   山下彩乃

童謡の「焚火」の唄は、たしか中野区上高田が発祥地だと聞くが、焚火が禁止されて久しい。
若い俳人である山下氏に焚火の経験があるかどうかは定かではないが、かの山脈とはかなり大胆な措辞である。
それは、山神を超越した霊気みたいなものが、にわかに現れて迫ってくるからかも知れない。
そういう意味で、焚火とぴったりと似合う里山ではなく、山脈との措辞はインパクトが強い。
この季節、山脈は輝くばかりの雪嶺であり、朝な夕な茜色に染まる。
日に日に強まる寒さの中、作者の気持ちの高ぶりも見える句だ。
高村光太郎の詩「冬が来た」をいつしか口ずさんでいた。



骨拾う珊瑚の欠片と星屑   豊里友行

本土とは異なる亜熱帯気候特有の自然環境と、独自の文化に育まれてきた沖縄を誇りしていつも創作を続ける豊里氏。
慕い愛した祖母の骨を沖縄の海の珊瑚の欠片、沖縄の澄み切った夜空の小さな星と詠い追悼する。
ナイチャー(本土の人)の季語に違和感を覚え、ウチナーンチュ(沖縄県人)の叫びとしての作品とも言える。
そして本土の青山河ではなく、むんむんとする亜熱帯樹林と赤茶けた酸性土壌の山河に眠る祖母を偲んで、燦々と広がる沖縄の海に悲しみを詠う。

祖母眠る山河は海に歌い出す   同上



笹木くろえ 流星嵐 10句 ≫読む
豊里友行 祖母眠る 10句 ≫読む
菊池麻美 神去月 10句 ≫読む
山下彩乃 野 蛮 10句 ≫読む
田中朋子 ビル風10句 ≫読む
宮本佳世乃 カナリア10句 ≫読む



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