2011-12-18

林田紀音夫全句集拾読194 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
194




野口 裕




草に寝る月夜ふたたび胸の中

昭和五十三年、未発表句。従軍体験の反芻。テキストだけで判断すると、それを唯一の解とはできず、作者の伝記的な事実を加味する必要がある。また、「の中」という言い方も安易。未発表に終わった理由は十分に推測し得る。

だが、作句時点の安定した生活を反映してか、戦争句にありがちなごつごつした調子がなく、なだらかな響きを持つ。紀音夫は若い頃に長谷川素逝の句に親しんだ。「花曜」に所属し、否応なく六林男の句と付き合っていると、六林男と違った戦争体験句を、となる。そんなときに、長谷川素逝を読んだ経験が無意識に出てくるのだろう。

 

灯に游ぐビーズの色を拾いつつ

昭和五十三年、未発表句。夜空を游ぐ様々の灯の色。あそこは黄色、あちらは赤と、さながらビーズを拾うかのようにひとつひとつの灯を確認してゆく。この前の句が、「行きどころなく山上に灯が傷む」とあるので、山上から見た下界の景か。

 

曳航のみどりご胸にまた沈む

昭和五十三年、未発表句。昭和五十四年「花曜」に、「沈む嬰児涙の粒の星が出て」とあるのはこの句の発展形か。発表句を下敷きにして、未発表句を読むとわかりやすくなるが、未発表句には下敷きにとらわれない解釈も可能だろうから、句には多様な意味・イメージを含んでいる。それを確定することなく多様なまま一句に定着させたと見える。「曳航」と「沈む」が響き合っている。比較してみると、「花曜」発表句の方は分かり易すぎるか。

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