〔週俳12月の俳句を読む〕
ベテラン
笠井亞子
しほたれておでんの湯気の当たるまま 太田うさぎ
「潮垂れる」。こういう字を当てるんですね。海水などに衣服がぬれてしずくが垂れる。涙をながしてなげきかなしむ。みじめったらしい様子になる。と辞書にはある。
いいなあ「しほたれて」。「うなだれて」では全然感じが違うし「しょぼたれて」でも。この時、作者は「しほたれている」というほかない自分を発見したということなのだ。こんなコトバはベテランにしか出せません。
四角いビルの四角いオフィスで日々を送るようになって何年になるだろう。効率を優先させるリニアな日常。疲れる。直線ばかりではね。少々のことではたじろがないつもりだったが、今度ばかりは参った。かなりなさけない事態だけど、まあそういうことだってある。
どんな事があっても、次の日はしゃきっと、いつもの自分を仕立て直して職場に出る。そういうあたりまえを自分に果たしてきたし、肝に命じてもいる。もうベテランなんだから。そのためには少しのお酒と、そう、この時期ならおでんが必要なのだ。
塩・タレ・おでん・まま(「当たるまま」には「アタリメ」も隠れていたりして)と、食べ物の音が連鎖して楽しい。
まあるい大根に箸を入れれば、ふわっと湯気がたちのぼった。
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