林田紀音夫全句集拾読 199
野口 裕
待針に昼の明るさいつまでも
昭和五十三年、未発表句。前項、電線と同傾向の句。安定した生活が、こうした句も生む。「いつまでも」は実感であり、願いでもある。
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火宅無常へ赤煉瓦ひとつ足す
昭和五十三年、未発表句。火宅が火中の家であれば、赤煉瓦はそれを防ぐ意味もある。解釈すればするほど抹香臭くなるだろうから、これぐらいで止めておくが、赤煉瓦に異様な物質感がある。第二句集『幻燈』に、「赤煉瓦はこぶひとりに巫女の影」がある。
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空の紺はがきひとひら辿りつく
昭和五十三年、未発表句。「辿りつく」が、はがきの内容を示唆してこちらの想像をかき立てる。対するに「空の紺」が、人界の細かな機微とは無縁の世界を広げる。中句のひらがなだけの表記と、あまり使われない「辿」の漢字表記がもたらす効果は紀音夫好みと言える。
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2012-01-22
林田紀音夫全句集拾読199 野口裕
Posted by wh at 0:05
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