2012-02-12

〔週俳1月の俳句を読む〕近恵

〔週俳1月の俳句を読む〕
嚔の正体

近 恵


行き先を忘れてしまふ嚔かな   村田 篠

体内にあって機が満ちるまでは「よーし行くぞー!外に出るぞー!なんか解らないけど待ってろよー!」的意気込みでもって飛び出して来る嚔だが、いざ飛び出てしまうとへなへな~と散らばってしまい「あ…なんかもうどうでもいい感じがする~」と散逸してしまう。嚔自体は単に身体の機能に従った現象なのだ。けれどこう書かれてしまうと、それ、きっと意気込みすぎだよね、でもそういうことよくあるかも。計画立てただけでやった気になるテスト勉強とか、絶対にプロになると田舎を出て来たのにひたすらバイトに明け暮れて気付いたら30歳自称バンドマンとか。。。妄想し始めるとキリがない腑抜けな数多の事象だけど身につまされる…それが実は嚔の正体なのだと教えてくれる。


裕福な犬に吠えられ十二月   雪我狂流
義士の日の犬のうんこを持ち帰る

犬に吠えられるだけならどうということ無いが、これが「裕福な犬」となるだけでなんだか惨めな気持ちになる。裕福な犬という見方も、それに吠えられるというのも、十二月というどん詰まりの月も。不意に吠えられて一瞬怯んでしまった様子が想像できる。ただそれだけのことなのに何故か切ない。

犬のうんこを持ち帰るのであれば普通は自分の飼い犬のものだろうが、吠えられた後にこの句が来ると、まるで道端に落ちていたそれを持ち帰るようでもある。できれば前日あたりに落とされてカチカチになったころころっとしたものであって欲しい。ふと目について、しゃがんで、コンビ二の袋かなんかでちょいと摘まんで持ち帰るのだ。これが義士の日というからなにか正義感に溢れているような気にもなるが、実はそんなに意味はなく、たまたま。ちょっとした出来心。そんな感じがする。


万年筆で描きたい冬の夜の街   福田若之

よく言えているなあと。インクはブルーブラック以外有り得ない。ほどよい月明かりでぼんやりと浮かぶ夜の街。きっとギラギラの繁華街ではなく、住宅街の三叉路あたり。雪というよりも空っ風に吹きさらしの街角。そこにいてぽつんと自分だけが取り残されたような気分でいるのだ。


〔新年詠より〕

孵りたかったであろう数の子夜が深む   池田澄子

数の子をぽりぽりと齧りながら、でもこの口の中の数多の卵は本当は海で命を受けるはずだったものなのだと思いを馳せる。そして様々な命をいただいて生き長らえてきた自分の命も思う。「夜が深む」が実に効果的。明太子や筋子ではなくぽりぽりという数の子の弾ける歯ごたえが、噛みしめるほどに業の深い我が身へと思いを沈めていくようだ。


初旅の足湯して待つ市電かな   太田うさぎ

一目瞭然。初旅のどうということないワンシーン。けれど空は青空、風は微風、鞄にはお土産、眼前にすこし寂れた温泉街の町並み。ものすごく気持ちよく開放感溢れるひと時。ただそれだけしか言わずに、この旅行が充実したものであることまで想像できる広がりのある句。年頭にあっていい一年になりそうな予感までする。


忘れたきもの眼前に初明り   関 悦史

年が明けたからといって去年までの事がなくなってリセットされる訳ではないのだ。忘れたきものということは忘れていないという事。無視して過ぎることができないという事。それが初明りで浮かび上がり新年のお目でたい気分から一気に現実に戻される。いいじゃないの、正月ぐらいは全部忘れたことにしてちょっと新年に浮かれてみても、なんて声をかけたくなるが、実はわが事でもあったりして。昨年の震災を思えば、あまりにも現実的で厳しい一句でもある。


元日やバイクすべてに銀シート   四ッ谷龍

鈍い銀色のシートを被ったバイクが並んでいる。バイク屋なんだろうか。あまり人気もない。シートも別に陽を返してギラギラしている訳でもない。ただ寝た様に並んでいるだけ。それだけのことなのに何故か淑気に満ちている。この句は不思議な存在感を放っている。


第245号 2012年1月1日
生駒大祐 うしなはれ 5句  ≫読む
村田 篠 水鳥 5句  ≫読む
上田信治 ご町内 6句  ≫読む
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第246号 2012年1月8日
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第247号 2012年1月15日
谷口智行 初 暦 7句 ≫読む
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第248号2012年1月22日
雪我狂流 日向ぼこ 7句 ≫読む
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矢口 晃 蝌蚪は雲 7句 ≫読む
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福田若之 既製品たちと歌ううた 7句 ≫読む

第249号2012年1月29日
望月 周 冬ゆやけ 7句 ≫読む
林 雅樹 紛糾 7句 ≫読む
松本てふこ 遊具 7句 ≫読む
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