2012-02-12

林田紀音夫全句集拾読202 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
202




野口 裕




佛飯の指の飯粒口にする

昭和五十四年、未発表句。もったいなさも多少はあろうが、口にしたのは故人のなつかしさでもあろう。昭和五十四年海程及び花曜には、「仏飯に残る時間の手を添える」。卑近な方は手元に残した。

 

三月のてのひらうすく顔洗う

昭和五十四年、未発表句。早春の感覚。掌に触れる水の冷たさが、触覚をうばうようにはたらく。それを「てのひらうすく」と表現した。「顔洗う」が義務感のような起床を思わせ、生の充実感からほど遠いよそよそしさを漂わせる。

やはり有季定型ということが影響したのか、発表句に発展形は見当たらない。

 

氷片をコップの音の夜の翳

昭和五十四年、未発表句。コップに入る氷片の音が、さっと地を払う日中の鳥影のように、夜を翳らせた。語順もてにをはも入れ替えて、さらに語を継ぎ足さないと散文化は無理。昭和五十五年海程に、「氷片をコップに何時の死か浮かぶ」。発表句の方が分かり易いが、耳に響く要素などは消えてしまった。

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