2012-02-19

林田紀音夫全句集拾読203 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
203



野口 裕



目礼の蝶と連れ立つ道すがら

昭和五十四年、未発表句。いかにも春。

 

太陽を描く水辺の小学生

昭和五十四年、未発表句。紀音夫らしくない傑作。大きく生き生きと画用紙の上を動く手や腕が見えてくるようだ。「らしくない」という理由で未発表に終わったのだろうか。

 

草に寝ていつか十字架その形

昭和五十四年、未発表句。大の字だったか、草枕だったか、いつか十字架になっている我が姿勢。「その形」のだめ押しを嫌ったか。

 

先に行く蝶に堂塔火の昔

昭和五十四年、未発表句。蝶の向こうに堂塔が見える。ゆっくりと歩く私は昔を回想している。火のような過去を。

蝶と堂塔と私の間には何の関係もない。同じく、外界の景と私の回想とは無関係である。だからこそ句として成り立つ。と、強弁したくなるような雰囲気があるが、やはり「火の昔」は強引かも知れない。

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