2012-02-26

林田紀音夫全句集拾読204 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
204




野口 裕




風翔けて星に近づく鬼瓦

昭和五十四年、未発表句。翔けるのは風だが、風を上昇気流と想像しているのは作者である。星から目を転じると、想像を鎮めるかのように視界が鬼瓦をとらえる。風は鬼の送った天界への使者か。高揚感と諧謔の両用を狙って、鬼瓦が微妙な位置にある。


声が出傾く日射し草野球

昭和五十四年、未発表句。「声がいで」と読むのだろう。作中主体は声の主だろうから、草野球をやっているうちに時間が経ってしまった、というような句意になるだろうが、「傾く日射し」にはどことなく草野球を外から眺めている雰囲気がある。いずれにしろ、草野球は時を忘れてしまうようなところがある。出る声もだんだん小さくなって行くような疲労感を漂わせて。

 

階段の途中で暮れてトルソの少女

昭和五十四年、未発表句。階段というと、

    階段をぬらして昼が来ていたり   攝津幸彦 (『鳥屋』昭和六十一年)

   階段がなくて海鼠の日暮かな    橋閒石 (『和栲』昭和五十八年)

   鉄階にいる蜘蛛智慧をかがやかす  赤尾兜子 (『蛇』昭和三十四年)

などを思い出すが、これは紀音夫流の階段。暮れて胴体だけが浮かび上がる。どこかムンクの描く少女を連想させる。

 

釣りびとと別の水平線望む

昭和五十四年、未発表句。視界が釣りとは無関係の方向を向いている、というだけの話だが面白い。かつて、このような句では、水平線は何を指すのだろうとか、釣りびとと別とは作中主体の他者に対する態度はとか、とかく詮索の対象を探し出そうとする読み方をする人が多かったのではないだろうか。そのような読みに晒されることで紀音夫は摩耗してしまったのではないか。ふとそんな妄想にとらわれてしまった。

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