【週俳2月の俳句を読む】
ロードムービー的に
村上瑪論
紅梅の命日ほどの華やかさ 齋藤朝比古
よく桜と死は即過ぎと言われる。では梅との相性はどうなのであろうか。白梅であるならばともかく、紅梅のあのあでやかさを以てして速度を上げつつ、中七に「命日ほど」というトーンダウンしたものを挟み込むことで思考は一瞬下を向く。しかし、「華やかさ」というある意味感覚的な言葉で、ふたたび加速して一気に走り抜けてしまう。ずいぶんと手の込んだ、かつ起伏に富んだ派手なつくりである。「命日」というモノクロームな隠し味の効いた総天然色的世界なのかもしれない。
ころがりし薬莢の艶冬旱 津川絵里子
乾ききった大地をその男は黙々と進み、立ち止まっては照準に目を当て猟銃の引き金に指をかける。ただ猟友会などの団体を通し複数で猟をしなければならないのかどうかは知らないが、やはり一人であった方が絵にはなる。しかも鴨などは制限されているようだが、青頸あたりであってほしい。不謹慎だが。「ころがりし」の措辞はいま現在の動きであり、引き金を絞った瞬間薬莢が冬旱の野に吐き出された。その薬莢の持つ色がまわりの冬旱の色と共鳴している。猟銃音、薬莢、そして背景の色と提示された素材からの飛躍を楽しむ一句となった。
落葉これ土に喰い込む途中かな 谷口慎也
まるで高速度撮影したような映像を切り取った世界。落葉が土の上にあり、今まさにそれが朽ち果てていこうと、土にいくらか身を沈めている。実際は静止画像なのだが、そこにはコンマ何秒の動きがある。その落葉が還っていこうとする土さえ過去の落葉などが長い年月をかけてつくり上げてきた腐葉土であって、食物連鎖の一環を担っているのも事実だ。ふと、背後にリーンカーネーション的なものを感じた。
第250号 2012年2月5日
【『俳コレ』作家特集】
■齋藤朝比古 大階段 7句 ≫読む
■津川絵理子 春 寒 7句 ≫読む
■岡村知昭 待ち伏せ 7句 ≫読む
■南 十二国 おはよ 7句 ≫読む
第251号 2012年2月12日
■谷口慎也 流離譚 10句 ≫読む
■中山奈々 ライブハウス 10句 ≫読む
第252号 2012年2月19日
■小林鮎美 ワーカーズ・ダイジェスト 10句 ≫読む
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2012-03-11
【週俳2月の俳句を読む】村上瑪論
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