2012-03-11

林田紀音夫全句集拾読205 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
205



野口 裕



水もみどりの城郭女から昏れて

昭和五十四年、未発表句。「彦根楽々園」の詞書きあり。若干、演歌CD販売促進用ポスターの趣もあるが、紀音夫の好みがストレートに出ている。

 

暫くは草木に声の雨の粒

昭和五十四年、未発表句。昭和五十五年、「海程」・「花曜」の両方に発表された「草の葉に降り水葬の暗さの雨」とを並べると、外界の景から何に視線が注がれ、どこへ想が赴くか、紀音夫の句作の典型を見て取ることができる。未発表句には、景の叙述に徹したという緊張した気分よりは、「声」という擬人法のなせるところか、景から想へ赴くゆるやかな気分の盛り上がりを感じ取れる。発表句には、想念の行き着いたところを示さずにはおかない突き詰めた気分が読み取れる。連作にすることのできない事情はあったのだろうが、多量に発表できる媒体があればなあと、過去にIFを入れたくなる。


新月の搔き傷ポプラざわめいて

昭和五十四年、未発表句。月とポプラという紀音夫好みの素材で固めた句。作者自身にまたかという思いもあろうし、新月はやがて丸くなってゆくという楽観的気分を誘う素材なので、句の表情を損なう面もあり、発表には至っていないが、新月の搔き傷という表現には心惹かれるものがある。

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