【週俳2月の俳句を読む】
禁断の果実ほど
榊 倫代
断面のやうな貌から梟鳴く 津川絵里子
相対的に鳥類の中では平面的に見える顔を持つ梟ですが、それを「断面のやう」と捉えたところが、この句の眼目でしょう。猛禽類の持つ猛々しさや厳しさも感じられる表現です。
また、断面のような貌がある→その貌から梟が鳴いた、という入れ子構造になっており、この「から」が起こす奇妙なずれと、「断面」の持つある種の緊迫感が一句全体の世界を不思議なものにしています。
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弁当の匂い籠もりて雪催 小林鮎美
「ワーカーズ・ダイジェスト」と題された10句作品から。津村記久子に同名の小説がありますが、その世界観にもどこか通じる作品群です。普通の人々が普通に働く日常を淡々と描きながら、ちょっとした可笑しさや喜び、ささやかな救いのようなものを丁寧に掬いあげています。
掲出の句は、事務所のようなあまり広くない部屋なのでしょう。弁当の匂いがいつまでも籠って残る。窓も扉も閉め切った寒い日の仕事場らしい景です。
市役所に獅子舞が来る市長噛む 小林鮎美
市役所に獅子舞が来るのはいかにもありそうですが、「市長噛む」で俄然面白い場面になりました。
あの課だけマスクの人が多すぎる 小林鮎美
外側から客観的に観察しているようでいて、ほんのちょっぴり毒が感じられるのは私だけでしょうか。いい意味でぴりっと。
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ふつつかなキツネですがと影絵かな 谷口慎也
影絵遊びにキツネはよく出てきますね。キツネ、犬、鳥は、手と指で簡単に作ることができるので、灯と影を映す場所さえあれば、すぐに遊ぶことができます。
掲出の句は、昔話や童話の中の一場面なのでしょうか。どんなお話なのかわかりませんが、女性に化けて、嫁や母として人間の生活に入り込むことの多いキツネなら「ふつつかものですが」のセリフがあってもおかしくはありません。
絵の中の枯葉が枯葉みてさわぐ 谷口慎也
落葉これ土に喰い込む途中かな 谷口慎也
「枯葉が音を立てる」「落ち葉が土に戻っていく」という自然現象を、枯葉や落ち葉があたかも意思を持って動いているように見ているところを面白く読みました。
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佳き人と悪しきもの喰ふ朧かな 齋藤朝比古
体に悪そうな食べ物ほど、時に魅力的に見えるのはなぜでしょうか。これは禁断の果実とわかっているときほど、抑えがたい食欲の衝動。ましてや、隣にいるのは「佳き人」。ふらふらと口にしてしまうのも無理はありません。
「喰ふ」という措辞、「朧」という季語が効いて、食べるという行為の持つ背徳性やエロティックさを際立たせています。
子供から大人に渡る土筆かな 齋藤朝比古
子どもって渡してきますね。ちょっと外に出るとすぐ。そのへんに生えてる草とか小石とか虫の死骸とかネジとかBB弾とか。小さいうちは単純に渡すという動作が楽しくて。少し成長すると、喜ばせたいびっくりさせたいなど、相手の反応を期待して。
掲出の句、わざわざ採りに来たというより、偶然、土筆を見つけて摘みとったように思えます。目ざとく見つけたのは、子どもなのでしょう。「土筆あったよ」と大人に知らせながら、手渡している様子が目に浮かびます。小さい手から大きな手へ。土筆を通して描かれているのは、足もとの草花に目をとめ、春を楽しむ人々の姿です。
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一年がたちました。節目の時期だからでしょうか、どんな句を読んでも、ふと震災とその後のことを思うことがあります。
全ての人に穏やかな春の日が訪れることを願ってやみません。
第250号 2012年2月5日
【『俳コレ』作家特集】
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第251号 2012年2月12日
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第252号 2012年2月19日
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2012-03-11
【週俳2月の俳句を読む】榊倫代
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