【週俳2月の俳句を読む】
人生をひと休み
岡田一実
二月は短い。わかっていても短いのでなんだかせわしなくなる。せわしないとゆっくりとした句に逢いたくなる。春の気配と余寒の両方を感じながら二月の句を読んでみたい。
佳き人と悪しきもの喰ふ朧かな 齋藤朝比古
体に悪いものは大抵旨い。そうとわかっていても食べてしまう。佳き人と食べるなら悪さも数倍、旨さも数倍だろうか。朧夜に肩を並べながら食う悪しきものの甘美さに人生の少しくらい賭けたって良いではないか。
摘み草に永き踏切ありにけり 津川絵里子
かんかんかんかんと踏切はいつまでも鳴り続ける。こちらとしたらせっかくの摘み草が中途になってしまう。別にだからといって急ぐ用でもないのだ。永き踏切も摘み草も永いかも知れない人生の小休符みたいなものだ。ゆるやかな気持ちで待っていよう。
待ち伏せや小春日和に靴脱いで 岡村知昭
先に靴を脱いで店なり家なりへあがってどきどきしている。今日こそは驚かせてやろうとじっと待つ。小春日和がなんともぽかぽかして気分も良い。少しの仕掛けが豊かな時間をもたらす。ちゃんと驚いてくれよと私も願う。
てのひらの喜んでゐる寒さかな 南十二国
ああ寒い。手が悴んで擦り合わせたり息を吹きかけたりしている途中で手だけが寒さとは別に喜んでいるように動いている。ちょっとした発見でほっとする。寒いのも悪くない。
前の世に見た遠火事をまた煽ぐ 谷口慎也
今の世と前の世がループしてデジャヴを引き起こす。どうせ遠火事なのだという微かな皮肉。火事はヒトゴトなら不謹慎にも美しい。煽ぐ愉しさは不道徳であるからこそやめられない。
月おぼろ鎖骨の当たるカウンター 中山奈々
酒の入ったグラスはもう空に近い。バーテンダーはそろそろよした方が良いとかなんとか言ってくるが構いはしない。いい気分なのだ。絞れば滴りそうな朧月は酒を一層旨くしてくれる。成功も失敗もバーカウンターに鎖骨で直接教えてきた。今日もいちにちを教えておこう。
如月の川の光よ頑張れない 小林鮎美
煌々と流れる如月の川は満ちている。世の中「頑張ろう」「頑張れ」が溢れている。もう十分頑張ってきたよ。自分の力ではどうにもならない事態にどう頑張ったら良いのか。誰か教えて下さい。そんなこととは無関係なように如月の川はありったけの光を放って流れ続けている。
第250号 2012年2月5日
【『俳コレ』作家特集】
■齋藤朝比古 大階段 7句 ≫読む
■津川絵理子 春 寒 7句 ≫読む
■岡村知昭 待ち伏せ 7句 ≫読む
■南 十二国 おはよ 7句 ≫読む
第251号 2012年2月12日
■谷口慎也 流離譚 10句 ≫読む
■中山奈々 ライブハウス 10句 ≫読む
第252号 2012年2月19日
■小林鮎美 ワーカーズ・ダイジェスト 10句 ≫読む
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2012-03-11
【週俳2月の俳句を読む】岡田一実
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