2012-04-15

〔俳コレの一句〕齋藤朝比古の一句 茅根知子

〔俳コレの一句〕齋藤朝比古の一句
アカグンって何?……茅根知子


赤軍の籠りし山の芽吹かな  齋藤朝比古

その日、高校の制服を作るため池袋のデパートにいた。店内には(たぶん特設の)テレビが設置され、雪山にヘリコプターの音が響く中、山荘と機動隊員が映し出されていた。小学生だった作者も、きっとテレビに釘付けだったことと思う。

掲句には、40年前もの記憶を鮮明に呼び起こす強さがある。もはや、アカグン? セキグン? それって何? と言われそうな時代になった。しかし、筆者にとっては赤軍(連合赤軍)=1970年代であり、時代を表すキーワードとして、季語と同じくらい強く働く。当時の雪山を思い出し、そこに現在の〈山の芽吹〉を重ねることによって、今更ながら、遥かな時間の経過を思い知らされ、とんでもなく力強い句になった。

掲句は100句の中の1番ではない。が、100句の中に外せない句である。作品群のところどころに漂うノスタルジアが、この句を残して! と強く訴えるのだ。俳句が、間口17音奥行無限大であることを証明した1句と言えるだろう。その他〈動力は輪ゴム三本夏休〉〈仏壇のやうなテレビや柿の秋〉〈後の月ひとりの幅の跨線橋〉〈雪もよひ家のかたちに薬包紙〉などに注目した。


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