2012-05-27

【俳句総合誌を読む】 その「ひな壇」を拝見する 『俳句』2012年6月号を読む ……上田信治

【俳句総合誌を読む】
その「ひな壇」を拝見する
『俳句』2012年6月号を読む ……上田信治


1952年創刊の角川『俳句』、今号6月号が60周年記念号になります。



大特集「自句自解に学ぶ!100俳人の代表句」p.81は、自選の代表句1句と作句信条、短文からなる、いわゆる顔見せ企画。

大正12年生れの和田悟朗から、昭和58年生れの神野紗希までが並びますが、この100人が、平成24年の俳句界を代表するメンバーかというと、ここには、金子兜太も池田澄子も入っていないわけで。

じつは、この特集の前には「記念作品5句+エッセイ『俳句』とわたし」p.22のコーナーに寄稿している17作家(後藤比奈夫から長谷川櫂まで)、「作品8句」p.70のコーナーに10作家(森田峠から佐藤麻績まで)。

さらにこの特集の後ろには、「作品12句」p.230の7作家(鈴木貞雄から中岡毅雄まで)、「現代精鋭7句」p.262の10作家(大谷弘至から松本てふこまで)が配されています。

いちおう資料として目次のスキャン画像を貼っておきます。






(クリックで拡大)



以上144人に、前号5月号に登場の山上樹実雄、村越化石、本井英、山田耕司ほか数人と、次号登場の磯貝碧蹄館、星野椿、山崎ひさをほか数人を加えた150人強が、角川「俳句」の想定するザ・俳壇というものか、と察せられるわけです。

「壇」というだけあって、かなり見えやすく「ひな壇」状になっているわけですが、いくつか感想を。

巻頭は、ひな壇最上部にあたる「記念作品5句+エッセイ『俳句』とわたし」。

今年95歳の後藤比奈夫、93歳の金子兜太、82歳の鷹羽狩行から、73歳の茨木和生までずーっと来て、ポンと飛んで長谷川櫂59歳。

そういうことなのでありましょう。

駅前に八面玲瓏なるさくら 宇多喜代子
角を曲るや六月を光る川 池田澄子
日本に夏の富士あり俳句あり 長谷川櫂

今井杏太郎の名前がない。



大特集「100人の代表句」自分は、年の若い人からさかのぼるようにして、読みました。そのほうが、読みやすいです。

髙柳さんと神野さんの短文の文末が、両方「かもしれない」。

SST(榮猿丸・関悦史・鴇田智哉)が3人とも、100人に入っている。

関さんの存在が画期的かと。この人は、ほぼはじめての「インターネットから現れて俳壇に登録された人」と言っていいのではないでしょうか(芝不器男奨励賞はあったとはいえ)。

40代50代をふむふむと読み進み、60代以上はだいぶ景色がさびしい。結社の主宰ではあられるのでしょうが、、、という人が並びます。こりゃつらいな、つらいな、と思いながら、最後まで読むことに。

自選代表句は、やはりエモーショナルな背景のある作が多い。山西雅子、四ッ谷龍、佐怒賀正美ほか何人かの人たちの自解にぐっとくるものが。

そんな中、意外な代表句。

上着着てゐても木の葉のあふれ出す 鴇田智哉
ある年の子規忌の雨に虚子が立つ
 岸本尚毅
多分だが磯巾着は義理堅い 坪内稔典
柿の種誰も交換してくれぬ 辻田克巳

そういえば依光陽子、岩田由美の名前もなかった。角川俳句賞受賞者の扱い、すこし軽い?



「作品12句」p.230より

庭の薔薇ブリキの金魚より赤く 守屋明俊
噴水のスイッチ森の栗鼠の手に
薄荷煙草白蛾の腹の冷たさよ
 田中亜美
鞦韆の鎖つめたし雲つめたし 中岡毅雄



「現代精鋭7句」p.260

前出100人にあふれた新人枠に、『新撰』『超新撰』『俳コレ』以外の顔ぶれから、堀本裕樹、後閑達雄、凉野海音、鈴木淑子、白井健介。

このコーナーに出た人は、たっぷり書けて、得しましたね。

山口優夢さんの7句は、19、20の頃の彼を思い出させる。殻を破ろうとしているのかも。

ゆふぐれの蜂蜜ごしに濃き夕日
 佐藤文香
遠雷や手錠外すは裁くため 山口優夢
恋猫の片腹の泥白く乾き 相子智恵
うなぎうなぎ桶の形に曲がりけり 後閑達雄
ゆく春のゆうべのポテトサラダかな 白井健介



思いつくまま勝手なことを書きましたが、今年に入って「俳句」は、読み応えがあります。

「『俳句』60年を読む」(筑紫磐井)、「往復書簡 相互批評の試み」(岸本尚毅+宇井十間)等、注目の連載は続いていますし、20句競詠、来月は市川きつねさんと江渡華子さん。

俳句の世界でもっとも注目されるメディアであることは間違いのない、総合誌「俳句」が、これまで通り、読者と書き手を育てる中心的役割を担って行かれることを、期待してやみません。

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