2012-10-14

【週俳9月の俳句を読む】ニュートラルな目で 山田航

【週俳9月の俳句を読む】

ニュートラルな目で

山田 航



週刊俳句の寄稿者の皆さんについては、正直なところ詳しいプロフィールはほとんど存じ上げない。私ができることといえば、なるべくニュートラルな目で作品に触れることくらいである。


アパートにフレッツ光小鳥来る  後閑達雄

日本の空に鳴るなり威銃  同

とりあえず後閑氏の作品はとても面白かった。イメージが鮮やかな動画で流れるというのではなく、紙芝居みたいなんだよね。初句から結句まで一コマごとに静止画を見ている感じ。そのパタパタ感が実に良い。短歌ではやりにくいよね、こういうの。七七みたいに同じ音数が続いちゃうとどうしても静止画は難しいからね。取って付けたような結句を持ってくることが多いのは手癖なのかな。句集はふらんす堂で出されてるんですね。「冬空へたとへばこんなラヴソング」っていいなあ。ファンになりそう。


炎天のメインロードの土埃  杉原祐之

鯊の秋ハドソン湾へ薄茶色  同

海外詠なのかな。かっこいいですね。歌人でいえば本多稜さんをちょっと彷彿とさせます。「交易」とか詠んじゃうクールな感じが素敵。俳句という理性で割り切れないこともやっているけれど、社会人としては損得で理性的に動けるんだぜってそれとなく主張しているようなスマートさ。「鯊」もいいなあ。経済都市の冷酷な泥臭さを的確に象徴している魚のような気がするよ。


トロフィーを抱かせてもらふ良夜かな  金子敦

どんな状況なんだこれ。「抱かせてもらふ」ってことは自分でとったトロフィーではないってことかな。友人の家に行って、昔もらったトロフィーを話の流れで抱かせてもらったりする。そんなシチュエーションだとしたら、すごく小市民くさいな。でもそれだけにしびれる。その友人は幼い子どもを抱きながら相手をしてくれたりしていそう。なんだか全く知らない人の何気ない人生の一瞬をたまたま覗いてしまったような気分になる。他者がいるんだよなあ。この良夜は誰にでも平等で、その向こうにはこんなにたくさんの他者がいるんだ。


少女跋扈す九州地方のひめはじめ  谷雄介

サーモンの鮨恋人の口に消ゆ  同

 なんだこれは。相当めちゃくちゃだぞ。でも結構好きだ。「跋扈」って凄い言葉だよなあ。妖怪のイメージしか浮かばなくなるもんな。セクシャルなイメージをグロテスクに表現する志向のある人なのかな。サーモン食べる恋人の口だって地味にどぎついしね。〈君と食む三百円のあなごずしそのおいしさを恋とこそ知れ〉(俵万智)とシチュエーションはほぼ同じなのに、見ている風景は全く違う。谷氏の句からは、どうにもセックスに対する憎悪を感じてしまってしょうがない。歌人でこれに近い資質の人は……思い当たらないな。生という機能が持つグロテスクさを描く人はいるけど、性のグロテスクさを描こうとする人は、少なくとも男性には見当たらない。女性ならいるかもしれないけれど、こういう表現スタイルではなくもっと身体感覚をフル活用する方向で攻めるだろう。短歌では実は狙い目かもしれない、この作風。


るふらんくん 地層 10句 ≫読む
井口吾郎 沢庵自慢 10句 ≫読む
第281号 2012年9月9日
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小田涼子 夏あざみ 10句 ≫読む
第282号 2012年9月16日 
対中いずみ 膝小僧 10句 ≫読む
杉原祐之 ムースニー 10句 ≫読む
酒井俊祐 綺麗な黄色 10句 ≫読む
第283号 2012年9月23日
山口昭男 靴墨 10句 ≫読む
金子 敦 月を待つ 10句 ≫読む
後閑達雄 猫じやらし 10句 ≫読む
第284号 2012年9月30日
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