2012-11-04

2012落選展 18 佐藤文香 丘に見えたところ テキスト版

2012落選展 
18 佐藤文香 丘に見えたところ 

冬木立しんじれば日のやはらかさ
冬の日や浅瀬の鳩のうむ水輪
枯蔦や川幅に水わたらざる
冬銀河ゆるぶあたりのねずみ色
泪の夜さへもスープは熱く出来
冷えた手を載せれば掴む手であつた
その指をながめてをれば吾を摘む
われを離れてうづまくけむり寒夕焼
風花やときに押入より唄ふ
ゆふがたといふかたまりと霜の鶴
口元や雪は枯野へ細密に
ゆずり葉や更地脇群青の小屋
水仙の群のほぐれて向かうまで
月は春かつての最寄駅に降りず
春の星うらごゑうはずりてとがる
あかき葉のつと空を指す芽吹きかな
ふきのたう愛の湿度のととのほる
春になる中野通りを北へただ
谷に日のあたる時間や春の鳥
梅の庭わらつてくれる帽子のひと
梅園に光のひりときたる橋
梅林の草へするどく星の息
川までのてのひらに雛あたたまり
白砂に灰よはく降る桃の花
初桜めがねの朝はさりげなく
水温むいつか拾つてきた葉つぱ
古草やけものは君を嗅ぎあて笑む
春の夕日は君の眉間を裏から突く
花に夕焼スパゲッティを巻いてなほ
フリージア雑誌もて身をかくしける
若草や雨の日の鳥飛ぶはやさ
花冷の肺は吐息をほしがりぬ
ねむる君の顎に指置く春あはき
たんぽぽを活けて一部屋だけの家
おなじ布団ぬけだし花の空がちかい
春草に笛の音ぬれてきたりける
貝寄風の尾や足首を巻きて逃ぐ
わが影を避け恋猫は花壇を去る
柵に鼻あてて黙すや鳥の恋
さへづりに濡れてはじめの樹へ戻る
人待てば樹は春雨に重くなり
天やはらかく暮れたり君のこゑほしき
溶けぬ砂糖に潰すミントの茎むらさき
桜蕊降るやひとりの夜がすべて
葉桜や丘に見えたところに来てゐる
空に風夏野は夕を迎へたり
飛ばずある鳥のつがひや杜若
呼吸そつと汗の後頭部を抱く
いつまでもむかしの波を平泳
虹の根の兆す水面を見止まざる


2 コメント:

ハードエッジ さんのコメント...

注目句
川までのてのひらに雛あたたまり  佐藤文香

minoru さんのコメント...

気になる一句
「花に夕焼スパゲッティを巻いてなほ」
一日の終わりのハイライト的な豪勢に美しい夕景と、それとは対照的な些細な日常のしぐさとが、「なほ」というさりげない措辞によってごく自然体に一句を構成している。巧みだと思う。人によっては、「なほ」を邪魔とするかもしれないけれど。