2012落選展
19 生駒大祐 らふそく
天の川星踏み鳴らしつつ渡る
目を瞑るやうに雨止む草紅葉
非常階段段の隙より盆の月
名月の背後の星のあらはれし
洋梨とらふそく隣る灯さむか
漆紅葉昼の花火を見つむるな
潰えては肉に浮かびぬ柿の蔕
離ることなし流灯と映る灯と
ひとりずまひ湯呑に昨夜の秋の水
蜉蝣の雨に毀れてゆきにけり
沖へ跳びけむ螇蚸の浮かびゐる汀
おのづから粘土は花器に神無月
鶏頭花手話に独言なかりける
文殻を焚けば浅草見ゆるなり
日本間の匂ひのしたる冬の雲
湯冷めして体の中にゐたりけり
もう一度言ふ蕪提げ逢ひに来よ
硬さうな水朴落葉浮きゐたる
足跡を残し夜の去る芒原
鉄瓶の蓋の霞めり霜柱
鋸の生む木屑の熱や雪穿つ
下京や氷柱肥えゐて一つ根に
寒禽や瞼ぴしと眼球に
稀覯本書架可動式卒業す
缶に入るからふとますや春の春
てのひらのかたへの芹を摘みにけり
一枚の水になりけり薄氷
ふらここで子供が働いてをりぬ
風吹いて楊貴妃桜消えてゆく
木漏れ日の動いて春の半ばなり
春雨に畳の間てふ高さかな
眠たげに木の横たはる春のくれ
春一日教会のひかりといふは
太陽の育てし地球蝌蚪生まる
木の芽和箸置をなす箸袋
螺子締めて木を苦しむる夏はじめ
神酒にあるつよきよはきや青嵐
しろかねに乾酪削らむ夏殺めむ
トマトの種濃紫色とも見ゆる
雲の峰そこに生まるる蠅のあり
朝風や死螢の背ナ湿りゐる
腹に腹乗せて憩へり青大将
真清水のねつとり受くるひとしづく
蝸牛まみどりを糞りつづくなり
黒蟻や溶けし氷菓に流さるる
はつなつはましろきゆめとこゑがいふ
車庫に木箱すゑて香水瓶を売る
夕風に羽根たゆたへる扇風機
いのちなき鶏卵茹でる晩夏光
蝉の穴くきやかにある蝉の死後
●
2012-11-04
2012落選展 19 生駒大祐 らふそく テキスト版
登録:
コメントの投稿 (Atom)
2 comments:
注目句
天の川星踏み鳴らしつつ渡る 生駒大祐
潰えては肉に浮かびぬ柿の蔕 生駒大祐
黒蟻や溶けし氷菓に流さるる 生駒大祐
気になる一句
「名月の背後の星のあらはれし」
ありきたりな喩えで言えば、明月を主役とすると、その背後の星などは、通行人役ですらないくらいの微少な存在と言うことになるだろう。しかし、そんな微細な存在に焦点をあてることもまた俳の精神ということになるのかもしれない。諧謔の一句だと思う。
コメントを投稿