2013-01-27

林田紀音夫全句集拾読 250


林田紀音夫
全句集拾読
250

野口 裕





涅槃図に外界はためらいもなく夜

昭和六十二年、未発表句。涅槃図の句はここまで見かけなかった。夜を持ってくることで、描かれているすべてが闇に包まれたかのような錯覚を引き起こす。「ためらいもなく」の断定が効果的。句が破調であるだけに前後に涅槃の句が続く連作であれば、この句がさらに引き立っただろうが、この時期の紀音夫にはその発想はなかっただろう。

 

滑降のひかりを帯びて少女来る

昭和六十二年、未発表句。前後の句を見てもスキーとは関係がなさそうだ。滑り台か。とすると、滑り台の下で待ち受ける親の懐に滑り込んでこようとする小さな身体が想像される。日は中天に。

 

また雨の尾燈の海が近くなる

昭和六十二年、未発表句。「尾燈の海」をどうとらえるかで、情景は変わるだろう。海そのものと取るか、尾燈の氾濫を「海」と表現したか。素直に取れば、海上の船あるいは飛行機の尾燈を陸上から見ている景になるが、どうもピンと来ない。車の渋滞する夕暮れなどに車の尾燈がずらりと並ぶ風景をよく見かける。それに雨が加わると、なおさら機械文明と自然というようなところに思索が及ぶ。当方の解釈は後者に傾くが、前者を否定するほどの力はない。

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