2013-04-28

林田紀音夫全句集拾読 263 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
263

野口 裕





手を振ればわずか日当たる葛の花

平成元年、未発表句。人と別れたあとの帰り道で見つけた葛の花。葉の隙間からちょこんとのぞいている花が人と語らったあとの興奮を鎮めてくれる。葛の花はこれまでの紀音夫からは想像しにくい季語であるが、句の雰囲気は紀音夫のものである。

 

菊花展夜が来て夜の色飾る


平成元年、未発表句。照明に浮かぶ菊が昼間とは違う趣を見せる。太陽光と電飾光の違いはあるだろうが、作者側の心理的な受け止め方の違いも大きいだろう。繰り返される「夜」がそれを示している。

 

枝の柘榴に朝来て雲を淡く刷く

落日の全円海の上に終る


平成元年、未発表句。たまたま近くにあったというだけで、関連性のない二句を取り上げた。一句目、気になりながら、「枝」は必要ないだろうと眺 めているうちに、たまたま落日の句が目に飛び込んできた。この場合の「全円」は必要になる。季語の連想力を邪魔しないように仕上げることの多い有季の句 と、語の連想力をつなぎ合わせてゆく無季の句では、言葉を操る技法に違いがあるようだ。

紀音夫の場合、有季の句に無季の句に使われる技法が知らず知らずのうちに忍び込むことがある。減点法で句の良否を判定しがちで、気ままに読む当方としては取り上げるまでもないと飛ばしがちになるのかな、とも思った。

一句目の「淡く」が、言い換えが出来るような出来ないような、必要あるようなないような、なんとも微妙に響く。

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