【週俳4月の俳句を読む】
いろいろとしたくなる
山下彩乃
あ…浅間のいたずら鬼の押し出し
お椀の舟に箸の櫂
御旗立てむは
鬼遊び
「上毛かるたのうた」 外山一機
浅間山の大きさと一寸法師の対比にインパクトがあり、七五七五ですっきりしている。元はゲームであるから覚えやすいのも重要だ。全編を通して昔話の童謡のような気持ちで読んでいたが、〈わたしをすきいにつれてつて〉なども入るので現代的(バブル的)な部分がおかしみも感じさせる。高崎線に上野までよく乗っていたが、群馬にほとんど縁はなく、調べないとわからない単語もあった。群馬へ旅をしたくなる。
泡盛の氷河へどっぷり月沈む
「島を漕ぐ」 豊里友行
夜、暑さが和いだころ開け放した縁側で泡盛をロックで飲んでいる情景。とても心地の良い句だ。杯の氷を氷河とする意味はあるのか迷ったが、泡盛による酩酊感を考えると氷河くらいのダイナミックさがいいのだろう。十句を通してのテンションの高さと生命力にすこし困り、憧れた。沖縄へ旅をしたくなる。
エンジンの大きな虻が来りけり
「でれでれ」 西村麒麟
エンジンを持つものを考えてみると、蠅もあるし、蜂、特に熊ん蜂なんかが立派なエンジンを持つ。しかし熊ん蜂が現れたとしたら、ああ来たな、と余裕の体では居られないので、やはり虻だ。十句全体は、いい意味で放蕩として現代人の輪郭をとどめていないようにみえる。うらやましい。結婚をしてみたくなる。
木曽の風身中に入れ鯉幟
「鯉幟」 渡辺竜樹
そんじょそこらの鯉幟ではない。なんといっても木曽の風の通る鯉幟である。自然豊かな山脈、すがすがしい空気、きっと下には川も流れている。もし自分が鯉幟であるならば、そのような場所ではためきたい。
懲り懲りと言ひて子猫を持ち帰る
「日課」 篠崎央子
この「懲り懲り」は誰に向けた言葉でもない独り言であるし、猫に囁く「懲り懲りよねー猫ちゃん」という無意味な言葉ともいえる。懲りることはネガティブに捉えがちになるが、反省や諦念の感情は猫を持ち帰る行動で軽くなっている。句群として、〈浮名〉〈傘似合ふ妻でありたし〉〈泣くこと〉など、他からみた自分を意識する句というか自分を客観する句が多い。押しつけがましくない幸福感があった。
逆光のなか剪定の人うごく
「休みの日」 松尾清隆
逆光ということは庭の人間の顔はわからず、影が動いている。ぱちんぱちんと鋏の音が響いている。剪定をしていることしかわからないから庭師でもなく〈剪定の人〉になるし、どんなふうに動いているかも書いていない。通常は剪定の句は具体的な樹木の種類や、鋏かノコギリなのか、どんなふうに切っているのかなどで成立させたくなる。あえてぼかした語によって逆光が際立つことに成功している。
第311号 2013年4月7日
■外山一機 上毛かるたのうた ≫読む
第312号 2013年4月14日
■豊里友行 島を漕ぐ ≫読む
■西村麒麟 でれでれ ≫読む
第313号2013年4
月21日
■渡辺竜樹 鯉幟 ≫読む
第314号 2013年4月28日
■篠崎央子 日課 ≫読む
■松尾清隆 休みの日 ≫読む
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2013-05-19
【週俳4月の俳句を読む】山下彩乃 いろいろとしたくなる
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