林田紀音夫全句集拾読 275
野口 裕
蔦青く大声あげて子を叱る
平成三年、未発表句。紀音夫には、はなはだ珍しい句。未発表句でないと出てこない。当時、紀音夫の子は娘と呼んだ方がふさわしい時期にあたる。実体験ではないだろう。そんな風景を見かけて、子が小さい頃の記憶が甦ったと取る方が自然。叱る側、叱られる側双方を象徴して蔦の青さが眩しい。
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電線の弛く横切る火砕流
平成三年、未発表句。「雲仙・溶岩」の詞書。当時、雲仙岳の火砕流による被害がたびたび報道されていた。そうしたニュースから取材した句。甚大な被害をもたらした火砕流の上を弛んだ電線が横切っている。テレビの映像からそうした点に着目するところ、俳諧味があると評すべきだろう。
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青蔦を鱗のように人が棲む
平成三年、未発表句。句会では、「ように」や「ごとく」を嫌う人を結構見かける。仮に、この句を句会に出しても評価は低いのではないか。紀音夫と句座をともにした人達の口ぶりから察するにそう思われる。何かを守って、青蔦の中に籠もる人の描像は捨てがたいものがあるのだが。
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2013-07-21
林田紀音夫全句集拾読 275 野口 裕
Posted by wh at 0:10
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