2013-08-11

林田紀音夫全句集拾読 278 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
278

野口 裕





足袋を干し夕日が染めるまま残す

平成三年、未発表句。紀音夫が初学時代に習った句姿は、日常茶飯に取材して、こういう風だったのかと想像もできそう。師、下村槐太「焼目刺しらたまの飯よごれつつ」の世界に通じる。句会では、師の前で正座を崩すと叱声が飛んだとも漏れ聞く。そうした修練で叩き込まれたものが思わず飛び出たか。

 

行きずりに焚く火めくれてドラム缶

平成三年、未発表句。路傍の火もドラム缶も、第一句集に例句となる「道ばたの何する火かと訊ね得ず」と「ドラム罐叩きて悪き音愉しむ」がある。手慣れた素材の組み合わせから、一瞬を切り取ってみせる。後年の、阪神淡路大震災に遭遇した際の句に先行するようなたたずまいをふと感じるのは、思い過ごしではあろうが。

 

昼の月泛く陸橋のいつもの嘆き

平成三年、未発表句。「ソ連邦消滅」の詞書。なんとなく佐藤鬼房の「友ら護岸の岩組む午前スターリン死す」と似たおもむき。紀音夫の場合、いつもの嘆きの中にはゴルバチョフに対する同情もあったろうか。

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