【週俳8月の俳句を読む】
するりと逃げていくような
岡田由季
秋雨のなかの小鉢のやうな花 彌榮浩樹
小鉢のような花、そんな花はいろいろ思いあたる。決して派手ではなく、色も地味で小さく、目立たない花。けれどよく見ればくっきりと整ったかたちをしている。小鉢のよう、という発想に至ったのはあるいは日本庭園に咲いていたからかもしれない。秋雨の中では何でもない花や葉っぱが清潔に輝いて見えることがある。よく手入れされた庭園ではなおさら。この句自体、目立つ句ではないが、味わいあっさりと、それこそ小鉢のような印象の作品だと感じた。
虹あとの通路めまぐるしく変る 鴇田智哉
「目とゆく」というタイトルに従い、視線を追体験するような10句だろうか。前半は無季句、後半は有季に思えるが、そこには何か仕掛けはあるのだろうか。像が容易に結べそうで結べず、するりと逃げていくような作品が多く手がかりを探したくなる。いろいろな視覚のパターンのなかでこの句からはくらくらする眩しさを受け取った。
ダンプ過ぐ夾竹桃に風をぶつけ 村上鞆彦
夾竹桃が道路際によく植えられているのは排気ガスに強いからだそうだ。とにかく見た目にも丈夫そうで可憐という印象は無い花だ。公害に耐え、空気を浄化してくれるのはありがたいが、花や葉や全体に毒があるとか。車の中でも強そうなダンプと夾竹桃との対峙に都市の夏の迫力を感じる。
蒲田らしるるぷるぷるる白玉か 井口吾郎
回文俳句の楽しみ方のひとつとして、無理矢理なところ、少し苦しい感じを却って味わいと感じることがあるように思う。その点、今回の10句は見事な出来の作品が多くあまり無理を感じるところがない。この句は17音のうち7つを「るるぷるぷるる」というオノマトペに頼っているのでやや苦しいか。しかしその「るるぷるぷるる」が電車の発車ベルにも白玉にも綺麗にはまっているのでやはり見事な出来なのである。
夕ぐれを飛ぶ木耳の笑いけり 久保純夫
夕ぐれはあまた翔び立ちなめくじら
10句のうち1句目と10句目に同じ題材の句が配置されている。笑う木耳もあまたのなめくじらも、不気味でありながらどこかコミカルで、親しみがもてる対象だ。繰り返し同じ主題が出てくるのが幻想というものであろう。ベルリオーズの幻想交響曲で、恋人のテーマが幾たびもデフォルメされて出てくるように。
第328号 2013年8月4日
■彌榮浩樹 P氏 10句 ≫読む
第329号 2013年8月11日
■鴇田智哉 目とゆく 10句 ≫読む
■村上鞆彦 届かず 10句 ≫読む
第330号 2013年8月18日
■井口吾郎 ゾンビ 10句 ≫読む
第331号 2013年8月25日
■久保純夫 夕ぐれ 10句 ≫読む
2013-09-01
【週俳8月の俳句を読む】するりと逃げていくような 岡田由季
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