2013-11-03

2013落選展テキスト 15幸せの人 山田露結

15 幸せの人 山田露結

大窓に鉄塔迫りゐる立夏
畳まれて四角き顔の鯉のぼり
まな板の血をよく洗ふ若葉かな
包帯を解かれし腕や更衣
物音のあれは祭のはじまる音
人ごみを来て肌脱のひととなる
白南風や干されて妻のもの多し
よく喋る避暑地の自動販売機
五歳児や水着なければそれでよし
ラムネ売りラムネのほかに焼きそばも
幸せの人らつきようを漬けゐたる
カーテンのくたびれてゐる西日かな
蠅取や卓に貼りつく醤油差し
西瓜まだ切らずにありて昼ドラマ
少年とギター墓参に加はりぬ
鶏頭やバケツの水の照りやまず
抱き上げて父の高さの天の川
頼まれぬ秋刀魚も買ひて帰りけり
品書のラップに巻かれ走り蕎麦
テーブルに四辺檸檬の置かれある
遮断機の胸の高さに雁渡る
試着室より一人づつ秋の野へ
蛇穴に入る眠る子の息荒く
知恵の輪のあつさり外れ秋気澄む
パイプ椅子積まれて高し文化の日
樹の瘤は樹の顔ならず冬に入る
蒲団干す向ひの家は庭に干す
「うふぎ」のやうな「うなぎ」の旗や七五三
美しき石拾ひけり神の留守
ワセリンの蓋は炬燵の上にあり
担がれて屏風が橋を渡りくる
金属の韓国箸の冬日和
白息にまみれて言葉連なり来
珈琲と煙草それからクリスマスケーキ
座敷より見ゆる冬野に妻がをり
郵便受に家族の名前冬深し
元日やマラソンの息しづかに過ぐ
ジーンズの裾にくるぶし日脚伸ぶ
落椿ひらかぬ花も落ちゐたり
自転車の寝かせてありて春の雪
栄螺焼く煮汁零るる明るさに
青饅やおしぼり硬く巻かれあり
料峭の山の中から霊柩車
すこやかに背丈揃ひて麦青む
片腕は浅利を掻いてをりにけり
天井に閊へ風船紐垂らす
観音の見下ろす花の花盛り
仏蘭西麺麭朧の中に立てておく
巣燕や溢れんとして溢れ落つ
レコードジャケット背細く並ぶ暮春かな


1 コメント:

上田信治 さんのコメント...

15 幸せの人 山田露結

幸せの人らつきようを漬けゐたる

この断定は、そうとう無責任で唐突で、人間を描きながら非人情の境位を示していて、とてもいいと思った(すこし川柳ぽいけど、べつにいいと思う)。

選考座談会で池田澄子さんの推薦していた〈頼まれぬ秋刀魚も買ひて帰りけり〉〈白南風や干されて妻のもの多し〉のような、ずっぷり人情の世界も一方にあるわけですが。

まな板の血をよく洗ふ若葉かな
ワセリンの蓋は炬燵の上にあり
レコードジャケット背細く並ぶ暮春かな