15 幸せの人 山田露結
大窓に鉄塔迫りゐる立夏
畳まれて四角き顔の鯉のぼり
まな板の血をよく洗ふ若葉かな
包帯を解かれし腕や更衣
物音のあれは祭のはじまる音
人ごみを来て肌脱のひととなる
白南風や干されて妻のもの多し
よく喋る避暑地の自動販売機
五歳児や水着なければそれでよし
ラムネ売りラムネのほかに焼きそばも
幸せの人らつきようを漬けゐたる
カーテンのくたびれてゐる西日かな
蠅取や卓に貼りつく醤油差し
西瓜まだ切らずにありて昼ドラマ
少年とギター墓参に加はりぬ
鶏頭やバケツの水の照りやまず
抱き上げて父の高さの天の川
頼まれぬ秋刀魚も買ひて帰りけり
品書のラップに巻かれ走り蕎麦
テーブルに四辺檸檬の置かれある
遮断機の胸の高さに雁渡る
試着室より一人づつ秋の野へ
蛇穴に入る眠る子の息荒く
知恵の輪のあつさり外れ秋気澄む
パイプ椅子積まれて高し文化の日
樹の瘤は樹の顔ならず冬に入る
蒲団干す向ひの家は庭に干す
「うふぎ」のやうな「うなぎ」の旗や七五三
美しき石拾ひけり神の留守
ワセリンの蓋は炬燵の上にあり
担がれて屏風が橋を渡りくる
金属の韓国箸の冬日和
白息にまみれて言葉連なり来
珈琲と煙草それからクリスマスケーキ
座敷より見ゆる冬野に妻がをり
郵便受に家族の名前冬深し
元日やマラソンの息しづかに過ぐ
ジーンズの裾にくるぶし日脚伸ぶ
落椿ひらかぬ花も落ちゐたり
自転車の寝かせてありて春の雪
栄螺焼く煮汁零るる明るさに
青饅やおしぼり硬く巻かれあり
料峭の山の中から霊柩車
すこやかに背丈揃ひて麦青む
片腕は浅利を掻いてをりにけり
天井に閊へ風船紐垂らす
観音の見下ろす花の花盛り
仏蘭西麺麭朧の中に立てておく
巣燕や溢れんとして溢れ落つ
レコードジャケット背細く並ぶ暮春かな
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2013-11-03
2013落選展テキスト 15幸せの人 山田露結
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1 comments:
15 幸せの人 山田露結
幸せの人らつきようを漬けゐたる
この断定は、そうとう無責任で唐突で、人間を描きながら非人情の境位を示していて、とてもいいと思った(すこし川柳ぽいけど、べつにいいと思う)。
選考座談会で池田澄子さんの推薦していた〈頼まれぬ秋刀魚も買ひて帰りけり〉〈白南風や干されて妻のもの多し〉のような、ずっぷり人情の世界も一方にあるわけですが。
まな板の血をよく洗ふ若葉かな
ワセリンの蓋は炬燵の上にあり
レコードジャケット背細く並ぶ暮春かな
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