2013-11-03

2013落選展テキスト 9病室 高梨章

9 病室 高梨 章

きらきらと肺侵されてすみれ草
ていねいに苺つぶして夜微熱
春の日やひざへこぼるゝビスケット
つぎつぎに翼を折りて山眠る
月さして細道といふ渚かな
秋の日の抛物線がすてきです
くづかごよそこを動くな山笑ふ
紙くづは春のちひさな島である
日脚伸ぶ殊に離陸はうつくしく
ひとつぶの冬日くづれて水となる
遅き日のことにかがやく積木かな
他界からはるかな夕日蝉のから
輪になつて明かりをつける枯野かな
人ならば先に行かせて秋の暮
駅員とわかれてやがて雪になる
雪ひひと夢とも知らずあゆみけり
みづうみの底ひあかるむ蛍の夜
農夫来てやがてしづかにおよぐ夜
雲雀鳴くあそこはむかし鳥図書館
マドレーヌしまはれたまま春おはる
雷とほし空気枕の息をぬく
みどりごの喉にあたりて初蛍
月かげり木を抱くこども木のなかへ
百合咲いて這ふものたちの夜となる
げじげじがギリシャのくにのかたちして
飛行機雲掃除婦鳥の骨拾ふ
霧がふる父と子やがて手を放す
冬の月ひややかに非のうちどころ
霧はれてからつぽの箱持たされる     
花は葉に塵うつすらと書簡集
病むひとのあしうら白き聖夜かな
病むひとが橋の名をとふけさの秋
ひきがへるくちをきかずに昼となり
墓碑どれも他人同士よ桃の花
水の底ほのかに秋の手術室
ふる雪や誰も受話器をとらざりし
月朧しづまりかへる避雷針
月射せば落ちてゆくものみな愛し
芋むしにかるいくさめをさせたくて
霧ふればさびしからずやうしろ足 
とらへられし鹿ふりかへる冬泉
全集にふたつ欠けあり雪にかはる
死後といへど母に抱かれて春の坂
雲雀あがる農夫ひとりを遠く置き
絵の外へ出てしづかなり春の蠅
鰯雲あとかたもなき音色かな
隙間風白紙にはしるうすみどり
屋根屋根をひやす一羽の鶴白し
時雨ふる私だけがゐない町
水没の春の街から宇宙船


1 コメント:

上田信治 さんのコメント...

9 病室 高梨 章

きらきらと肺侵されてすみれ草
つぎつぎに翼を折りて山眠る
霧ふればさびしからずやうしろ足 

なんだかやたらパセティックな一連。ムードのあることばが、すこし多すぎるような気もするのですけれど。

水没の春の街から宇宙船

この句はなんだか、救いがありますね(水没してるのに)。