2014-01-12

【週俳12月の俳句を読む】水は音楽、詩はリズム 栗山麻衣

【週俳12月の俳句を読む】
水は音楽、詩はリズム

栗山麻衣


いやあどうもどうも初めまして。銀化で勉強しております栗山麻衣と申します。このたびは貴重な機会、あざーっすあざーっすあざーっす。なにかと不勉強な身ゆえ、至らぬ鑑賞になるかと思いますが、何卒ひとつよろしくお願いいたします。


双六のはじめアンパンマン家族  石寒太

いやーん。編集長ではありませんの! 俳句アルファ愛読してマス。字も大きいしね!

さて掲句。どこで切れるのかよく分からないのですが、タイトルが「アンパンマン家族」なことから「双六のはじめ」「アンパンマン家族」と分けて読みました。アンパンマン家族とは、もろもろアンパンマンファミリーのこと。新たな年を迎えた作者が子供たちと楽しむ双六は、この人気者たちが描かれたものだというわけです。

某国営放送の受け売りですが、彼らの生みの親で昨年亡くなられたやなせたかしさんは、若いころに理不尽な戦争で受けた心の傷と生涯闘い続けた方だったのですね。戦争反対、暴力反対。そうした願いが深く込められたキャラクターで遊ぶ子供たちには、日常的な平和への願いがごくさりげなく息づくことと思います。明るさと楽しさに加え、どこか厳粛さも感じさせる句なのではないでしょうか。


あの家は今生きてます干布団  高崎義邦

布団そうだよねー、生きてると干すよねー。かつて住んでいた家の近くには、洗濯ものがもうハンパ無いお家がありました。育ち盛りの姉弟&お父さんお母さんという、ごくごく平均的な家族構成ながら、朝からバンバンバンバンいろんなものが干されていく。そこにさらに布団も加わると、なんかもう「何か僕の将来に対する唯ぼんやりとした不安」(ⓒ芥川竜之介)とか吹っ飛ばす勢いがある。

俳句ウェブマガジン・スピカによると、作者は1991年9月生まれの学生さんとのこと。ちなみに乙女座だそうで、布団が干されている景色を、家が生きていると表現した感性がまぶしいぜ。「生きてます」と言い切ったことで、冬だけど暖かな日射しも感じられる。「今」という言葉をあえて入れたことで、幸せの刹那感も込められている気がします。


吸殻を拾えば闇の凍みにけり  五島高資

これはアレですね。シケモク拾いのことを言っているのですよね? ワタクシ、ギャグ漫画家吾妻ひでおの壮絶エッセー漫画「アル中病棟」のワンシーンを思い出しました。人間のおかしみ、哀しみ、切なさもろもろが描かれた名著で、なんとも言えぬ闇を抱えた人物たちが登場するのです。

この句で描かれる闇とは、物理的な暗さを指すと同時に、心に影をもたらしそうなものの恐ろしさも含んでいる。寂しさやみじめさ、それでもどこかにある毅然とした気持ち…。そうした曰く言い難い感覚を「凍みる」という季語に託しています。こう表現されてみれば、シケモク拾いも詩情あふれる行為なんだなあ。


水は音楽たとへば油零しけり  柿本多映

何これ! 水は音楽ってなんとなく魅力的なフレーズですが、そう言われてもピンと来ない。なのに中七下五まで読むと情景が浮かぶではありませんか。水に油を一滴でも零せば、そこから皮膜にマーブル模様ができていく。その広がる様子と、音が遠くへ伝わっていく時の視覚的なイメージがオーバーラップするってことですね。

作者の柿本さんについて、文芸ジャーナリスト・酒井佐忠さんは毎日俳壇のコラムで「虚と実の間に踏み込む鋭い実存意識に基づいた作品」を書いてらっしゃいます。作者の以前の作品「折れ蓮の折れたき方へ折れて冬」も大好きなのですが、しっかりモノを見つめる目とイメージを飛躍させる力に感服させられました。


三白眼のおとめごころや寒プリン  小津夜景

句群もさることながら、十句と十句の間に挟まれたロラン・バルトやアンリ・ミショーの出てくる詩とも言える中書き。これは分からん。お前の話は分からんっと、大滝秀治のキンチョーコマーシャルの調子で叫んでしまったワタクシ。ええ、ええ、そうですよ。どうせ教養ありませんよと諦めかけたのですが、何度か読み返すうちに、もしかしてこの作者の根底にあるのは言葉に対する愛と疑いではないかと思い至りました。

例えば「わたしは言葉で人を愛する」と書いたそばから、「実はほとんどジョークなんだけど」と切り返す。そう考えると、言葉遊びの裏に込められた真剣さのようなものがほの見えてくる部分がある。ような気もする。掲句の「おとめごころ」と「三白眼」、「寒」と「プリン」。甘いけど怖い。柔らかいけど寒い。ビミョーな不協和音から目が離せなくなってしまう。つうか、それが作者の狙いだったのか!


梟のこゑ土踏まずより入り来  奥坂まや

ごく平均的なニッポンのサラリーマン家庭で育ったワタクシ。自然界のフクロウの声を聞いたことはございませんが、言われてみればそんな感じがするじゃありませんの。確かに、あの独特の低音。土踏まずにあるアンテナがキャッチして、体中に響いてくるような気がしてきます。さすが。今更ながら、地下街の列柱に感じた初夏を描き、俳壇に新しい風を吹かせた方ならではの新鮮な感覚に脱帽デス。

作者について、ワタクシの持っている入門書では「鮮烈な美が瞬発力をもって構成され、季語を肌で捉えた、独自の心象的宇宙を描写する」と解説されています。ふむふむ。なるほどなるほどなのでありました。

つうことで、あきないは、短く持ってコツコツあてる(ⓒ西原理恵子)。このたびは四苦八苦しながら書かせていただいたことで、ワタクシ大変勉強になりました。サンキューで~す!(ⓒ陽岱鋼)。ではでは。


第345号 2013年12月1日
石 寒太 アンパンマン家族 10句 ≫読む
高崎義邦 冬 10句 ≫読む

第346号 2013年12月8日
五島高資 シリウス 10句 ≫読む

第347号 2013年12月15日
柿本多映 尿せむ 10句 ≫読む
小津夜景 ほんのささやかな喪失を旅するディスクール 20句 ≫読む

第348号 2013年12月22日
奥坂まや 海 原 10句 ≫読む




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