雪、白い。
手銭 誠
雪が好きである。
沢山降ると雪掻きが大変だし、まず冷たい。でも何故だか好きなのである。
それはたぶん、雪が白いからだと、最近気付いた。
白の語源は、「著し(しるし)」。「きわだっている」「はっきりしている」「いちじるしい」などの意味である。白は、色というよりもむしろ色のぬけた状態の「からっぽ」の色であり、かつ鮮明にきわだった状態の色でもある。
雪が降った朝は、街がすべて、白になる。昨日までの風景が、からっぽになる。
日本美術には「余白の美」という言葉もある。日本人は白の持つ「からっぽ」な感じを心のどこかで愛し続けているのかもしれない…。この風景を同じように見ていた先人たちが、やまと絵や和歌や茶の湯や能を作り出してきたのではないか…。
白一色の景色を眺めていると、そんな思いが頭の中をぐるぐるとまわり始めるのである。
さて、真っ白な雪野原にはじめて踏み入るように、俳句を確かめてゆく。
冬深しコーヒー豆の黒き溝 小野あらた
寒い冬の朝、コーヒーを淹れようと、ミルにコーヒー豆をからからと注いだ。
作者はそのとき、豆の一粒ずつに、「黒き溝」が刻まれているのを発見したのである。
上五の「冬深し」という季語が、その溝の深さにまで影響を与えている。「黒き溝」とは、あるいは作者の心の深淵の表出ではないか。
涸川の合流をする形かな 小野あらた
普通、合流する川を詠おうとする場合、その水のボリュームに目が向きそうであるが、それとは対極的に、細々とした涸川の合流を見つめながら、川の形状に目を向けたところが独特な視点である。ちょっとした目線の外し方が、俳諧的でもある。
穏やかな場面を平易に表現した句ではあるが、挑戦的かつ魅力的な句に仕上がっている。
除夜快楽なりぱみゅぱみゅも肉球も 佐怒賀正美
大晦日の夜である。年越し蕎麦を食した後、お酒でも飲みながら年末恒例の歌番組を見ている。作者は猫を抱いていて、無毛の肉球の盛り上がりを触っている。目の前には、きゃりーぱみゅぱみゅが登場し、カワイイとグロテスクを交差させながら歌っている。
誰しもが経験したことのある「除夜」の不思議な時間の流れを、可愛くもありながら不安定な響きを持った「ぱみゅぱみゅ」という言葉と、猫の「肉球」の感触を以て装飾している。そして、それらの言葉すべてが「快楽なり」という断定によって、しっかりと連結されている。
四回転以上して飛ぶ鬼打つ豆 佐怒賀正美
一般的に「四回転」という言葉は、例えばフィギュアスケートのようなスポーツでしか聞かない言葉である。スロー映像などで見ない限り、素人には何回転しているのか全くわからない。
掲句は、鬼に向かって飛んでいく豆が「四回転以上」していると言った。あたかもアクション映画のワンシーンのように、スローモーションでその瞬間を切り取っているかのようである。豆を投げる者も、襲いかかる鬼も、すべてがスローモーションである。
ピストルの弾のように錐揉み式に鬼に向かって飛んでゆく豆は、その映像の中心に位置し、渾身の力を持って回転している。
「四回転以上」という言葉を使って、スローモーションの映像であるかのように印象づけたことにより、ひとつの画面の中に「豆」と「鬼」と「豆を投げる者」すべてを躍動的に描きだしている。
第350号2014年1月5日
■新年詠 2014 ≫読む
第352号2014年1月19日
■佐怒賀正美 去年今年 10句 ≫読む
■川名将義 一枚の氷 10句 ≫読む
■小野あらた 戸袋 10句 ≫読む
第353号2014年1月26日
■玉田憲子 赤の突出 10句 ≫読む
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2014-02-09
【週俳1月の俳句を読む】雪、白い。 手銭誠
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