【週俳2月の俳句を読む】
まずはじめに混沌
岡本飛び地
梟や満天の星誘ひ出す 広渡敬雄
ソチオリンピックの女子フィギュアスケートの、リプニツカヤ選手のショートプログラムの演技を思い出した。
しゃがんで地面に何かを書いていた人が、急に天を仰ぎ、立ち上がり、広いリンクを滑り始める。
その振り付けが僕には、自分の周りの狭い範囲しか見えていなかった人が、天からの声で世界の広さに気付いたように見えた。そして、天を仰いだ瞬間に彼女が見たのが、満天の星空だと思えた。
満天の星は空に誘い出されるように出てきたのではなく、頭上の梟の声がそこに満天の星があることに気付かせてくれた。と解釈したい。誘い出された先は意識の中だ。
リプニツカヤ選手も、僕の中に満天の星空を誘い出してくれた。優れたパフォーマンスは見えないはずのものを見せてくれる力があるという。僕も近々、人前でパフォーマンスをする機会がある(下記)が、そういう演技ができればいいなと思う。
ささやかな誤植がありて菫色 原知子
とある冊子の編集に関わっていて、時々、文章の校正をしている。
文章を読みながら、誤字、脱字、表記揺れなどを探していく。文章をひたすら読んでいくと、ところどころで違和感を覚える箇所があり、読み返すとそこに誤植がある。
ただの違和感でなく、文章中に色がついたように感じる人もいるのだろうか、などとこの句を読んで考えた。
校正をする立場になるとささやかな誤植は実はとてもやっかいなものだ。修正すべしとはっきり言ってしまえる間違いならいいけれど、そうでないものは指摘すべきかどうかとても迷う。校正する人にとってのささやかな誤植の色は、もっとどぎつい色になるように思う。
だからこの句で誤植を発見したのはやはり、読者なのだろう。
直角が好きで二月の空仰ぐ 加藤水名
正多面体が好きだ。
正多面体は正四面体、正六面体(立方体)、正八面体、正十二面体、正二十面体の5種類がある。
正六面体は比較的好きではない。直角のみで構成されていて面白みが少ない。一方、正八面体は、正三角形で構成されているのに直角が含まれているところが面白い。直角好きの方には正六面体だけでなく、正八面体の直角も忘れず愛でていただきたい。
正多角形は無限にあるのに正多面体は5つしかないこと
辺、頂点、面の数の3つの数の関係に法則があること
正多面体同士の双対という不思議な関係性
これらのことを思うと、正多面体がダイヤのように純粋で美しいもののように感じる。
幾何学や数学の持つ純粋さと、二月の冷たく清んだ空には通ずるものがある。「二」の字が平行なのは、直角と対照になってるだけではない。2本の直線の隙間から真っ直ぐに、二月の空が見えそうだ。
混沌の欠片たとえば冬銀河 内藤独楽
ギリシャ神話が好きだ。
興味を持ったきっかけは、子供の頃に読んだ星座の本だった。ほとんどの星座は、ギリシャ神話がモチーフになっている。
ギリシャ神話で特に好きなのは、神々同士の親子関係や兄弟関係に妙に説得力があるところだ。
まずはじめに混沌(カオス)があり、混沌から天(ウラノス)と地(ガイア)が生まれ、天と地の子供には海を司るポセイドンや全知全能のゼウスたちがいる。ゼウスから太陽の神アポロンや美の神アプロディテなど、様々な神が生まれる。全ての事象が混沌(カオス)の子孫と言ってもいいくらいだ。
冬の星座を見て、数々の神話を思い描き、全てが混沌から生まれたことを思い出す。足元の大地も、夜も、今見ている冬銀河も混沌から生まれたものの一つだと気付く。
一点に収斂したものが、再び全体へと広がっていく景がとても美しい。
【参考文献】
ブルフィンチ作・野上弥生子訳『ギリシア・ローマ神話』岩波書店(岩波文庫)
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Juggling Stage 「ルーチンワーク」のお知らせ
≫http://routine-work.jp/
大学時代のサークルの先輩後輩たちと、ジャグリングの公演をやります。ご都合が合いましたら、是非お越しください。
●公演日:
2014年4月12日(土) 開場17:30 開演18:00
4月13日(日) 開場13:30 開演14:00
●会場:せんがわ劇場(東京都調布市)
●入場無料
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第354号 2014年2月2日
■内藤独楽 混 沌 10句 ≫読む
第355号2014年2月9日
■原 知子 お三時 10句 ≫読む
■加藤水名 斑模様 10句 ≫読む
第356号 2014年2月16日
■瀬戸正洋 軽薄考 10句 ≫読む
第357号 2014年2月23日
■広渡敬雄 ペリット 10句 ≫読む
■内村恭子 ケセラセラ 10句 ≫読む
2014-03-09
【週俳2月の俳句を読む】まずはじめに混沌 岡本飛び地
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